第12回:ミズノ株式会社

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本企画では、会員各位の外国人受入れ事例を紹介しています。

第12回でご紹介するのは、ミズノ株式会社(以下 ミズノ)です。同社は企業会員としてJP-MIRAIに参加され、2021年度下半期活動報告会での発表で会員相互の投票にて優秀賞にも選ばれています。 
ミズノ株式会社のウェブサイトは右記をご覧下さい。https://corp.mizuno.com/jp

9月中旬に、JP-MIRAI事務局によりオンラインインタビューを実施しました。

<取材に応じて頂いたミズノ株式会社の西村さん、安達さん>

Q. ミズノ株式会社のプロフィールを教えてください。

当社は1906年4月1日に『水野兄弟商会』として創業され、今年で創業117年になります。経営理念は「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」です。
また、創業以来、「ええもんつくんなはれや」という創業者・水野利八の言葉と共に発展してきたミズノの歴史はまさしく良いものを追い求めてきた歴史でもあります。
参考:ミズノの歴史
現在は子会社24社および、関連会社13社で構成されており、スポーツ品の製造および、販売を主な事業内容としています。
参考:ミズノの国内・海外活動拠点

Q. ミズノ株式会社のJP-MIRAI入会の経緯について教えてください

前共同事務局のASSCさんからJP-MIRAIの紹介があり、入会しました。

Q. JP-MIRAIでは、会員企業・団体に、「責任ある外国人受入れのための5つの行動原則」を実践して頂くよう呼び掛けています。本行動原則に関連する取り組みを教えてください。

行動原則2「私たちは、外国人労働者の人権を尊重し労働環境・生活環境を把握し、課題の解決に努めます。」の実践をしています。7月5日の「会員活動報告会」では、この行動原則実践の取り組みについて発表させて頂きました。

具体的には、国内外のミズノ製品を製造している拠点や工場において労働者に対する法令違反や人権侵害が行われていないかを調査し、問題があれば改善していくCSR(Corporate Social Responsibility)監査を2004年から行っています。

7月5日の「会員活動報告会」におけるミズノの発表内容

恐らく日本の企業の中で同取組みの実施は比較的早い方だったといます。当時、2004年にアテネオリンピックが開催された際、人権NGO・国際的な労働組合がオリンピック関連商品を製造する生産拠点・工場における労務管理・労働条件、労働安全衛生の改善、適正納期・価格の協議などをグローバルスポーツメーカーに求めるキャンペーンを展開しました。このキャンペーンに対応するためにミズノは、国内外の生産拠点・工場でCSR監査を開始しました。
当時はCSR監査という言葉は日本ではなじみが薄く、社内でも十分に理解が進んでいなかったため協力を得難かったと聞いています。しかし、徐々に社内の理解も深まり、今では年間30社~50社の監査を実施しています。

Q. CSR監査をどのように行っているのですか?

年に1度各担当者に工場との取引状況や従業員数などの工場情報の更新の依頼をします。工場との取引状況に基づいて500社以上ある取引先の中から監査対象工場を選出します。約150社の監査対象工場の中から、当年度の監査を実施する工場を選出しています。対象工場において3年に1度の監査を行うことにしており、本年度は、約50社以上のCSR監査を計画しています。 

2004年以来、CSR監査を行い、監査対象工場の選定方法などを見直しながら、現在の監査規模になりました。現在の仕組みになるまでに時間を要しましたが、早くからCSR監査を行ってきたことによる手ごたえやメリットも感じています。例えば、CSR監査を始めた当初は、受け身で取り組んでいたサプライヤーの方々も、今は自ら改善を進めておられます。現在の当社のサプライヤーの方々のCSR意識は、非常に高い水準にあると感じています。

また、ミズノでは、3年に1度のCSR監査の都度、不適合項目の指摘、是正というPDCA(Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Action(改善))のサイクルを回しています。監査後に、各工場が不適合項目を是正していくことにより、監査を重ねるごとに工場のCSR管理の状況が改善されています。ミズノのCSR監査では、監査結果をA/B/C/Dでランク付けを行いますが、年々Aランクと評価される工場が増えています。

その結果、当社と取引のある工場で、重大な問題のある工場は、ほとんどなくなりました。2004年から20年近くCSR監査に取り組んできた長年の蓄積が活かされている一例と思います。

Q. CSR監査を通じて感じた課題はありますか?

課題は、以下の3点です。

1)CSR監査をいかに補完するかということです。通常、監査では、1~3日間、現場に赴き工場の現場確認をします。現場の監査は工場のサイトチェックと工場関係者へのインタビューが中心となります。しかしながら、1~3日間の監査で得られる情報は限られます。
そこで、現場の声をよりタイムリーに収集するには、工場労働者の苦情処理メカニズムの導入が有効ではと考えています。しかしながら、導入には、OEM工場の経営者の了解を取らなければならないなど、制約が多くまだ導入にまで踏み込めていません。

2)ミズノと直接取引のある1次サプライヤーの監査は実施できていますが、部品、部材や副資材などの2次3次サプライヤーの監査は、試験的に実施したものの、定着しておりません。

3)CSR監査を通じての課題とは違いますが、ホームページ上で開示している工場情報の開示内容を今以上に充実させたいと思っています。

Q. 日本の「外国人労働者受入れ」についてどのようなことを感じますか?

日本の「外国人労働者受入れ」については、やはり技能実習生制度に問題点や課題があると感じます。技能実習制度の本来の目的である技能、技術、知識の開発途上国等への移転による国際貢献というより、労働者の調達で利用されているケースがほとんどで、帰国後に外国人技能実習生による技術移転がされていないケースも多いと聞いています。

ミズノでは、毎年、ミズノの監査員が現場の工場に入り、外国人労働者へのインタビューを直接行います。今年は16-17社の工場に実際に入って技能実習生インタビューなども行う予定です。その際には工場の管理者の方々の立ち合いのない、自由に意見を言える環境でインタビューを行います。インタビューでは、必ず実習生の手数料問題(日本に来る前に外国人技能実習生が背負う借金の問題)を聞いています。
昨年の監査時のインタビューでは、100万円くらいの借金を背負って日本に来た外国人労働者の話も聞きました。日本に来た最初の1年は借金返済のために働いたようです。
監査の現場確認の際には、必ず技能実習生の寮も訪問することで住環境を確認します。寮は相部屋のことが多く、住環境などは、日本に来る前に聞いていた事と違うという話も聞きました。

インタビュー時に「日本に来る前は、日本に対する憧れ、生活環境や労働環境への期待があった。現状は期待外れだったが、慣れました」というあきらめの言葉を聞いて、非常に残念に思ったこともあります。それでも、どこまで彼らの本音が聞き出せているかどうかはわからないとも思っています。

監査の記録は2012年からデータベース化しており、インタビュー時の記録など、日本国内工場の監査時の情報をまとめたものをJP-MIRAIに提出しました。それをJP-MIRAI事務局に見て頂いたことが会員活動報告会に登壇してほしいという要請に繋がりました。

Q. JP-MIRAIへの期待を教えてください。

外国人労働者の労働環境・待遇改善のため、今後もイニシアチブを取っていただきたいと思います。
具体的には、現在、最も多くの外国人技能実習生を派遣しているベトナムの送り出し機関への強制力を持った法整備・手数料規制、制度を悪用する送り出し機関・受入れ機関に対するより厳格な処罰など、政府への働きかけに加えて、外国人労働者の苦情処理メカニズムの構築に主導的な役割を担っていただきたいと思っています。   

<インタビューを終えて>
西村さんおよび安達さんには、お忙しい中長い時間をこのJP-MIRAIの取材のために割いていただきました。率直に現状や課題意識をお話され、現場を最重視し現場の外国人労働者の話を聞き続ける、ミズノ株式会社のお2人の姿勢には、取材しながら大きく感銘を受けました。この場を借りて感謝申し上げますと同時に、JP-MIRAIとしてもお2人のご意見を今後の活動にしっかりと活かしていきたいと思います。

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本企画では、会員各位の外国人受入れ事例を紹介しています。 第16回でご紹介するのは、榑松佐一さんです。榑松さんは個人会員としてJP-MIRAIに参加され、2022年度上半期活動報告会での発表が会員相互の投票にて優秀賞に選ばれました。 榑松さんの同活動報告については右記リンクからご覧頂けます。https://jp-mirai.org/jp/2023/13868/(ページ一番下に榑松さんの活動報告動画・資料を掲載しています。) 2月初旬に、オンラインインタビューを実施しました。 <JP-MIRAI会員活動報告会優秀賞の表彰状を手にする榑松さん> Q. 榑松さんのプロフィールを教えてください。 私は1956年生まれです。1978年名古屋大学理学部を卒業後、現コープあいちに就職し、2000年から愛知県労働組合総連合(愛労連)事務局長・議長を務め、2019年にコープあいち職員に復職しました。 2007年より外国人研修生の支援を始め、その後「外国人実習生SNS相談室」を開設しています。本もいくつか出版しており、直近では「コロナ禍の外国人実習生: 外国人実習生SNS相談室より」という本を出版しました。この中ではJP-MIRAIのことも紹介しています。 *「コロナ禍の外国人実習生: 外国人実習生SNS相談室より」紹介サイト Q. 榑松さんのJP-MIRAI入会の経緯について教えてください 先にお話したように、私は「外国人実習生SNS相談室」を開設しています。そんな中、KOKOROプロジェクトを主宰している毎日新聞の岩崎さんから私の方で扱った相談事例をKOKOROのウェブサイトで紹介したいという話がありまして、現在2つほど事例が載っています。 参考:岩崎さんによるJP-MIRAIでのセミナー:KOKOROプロジェクトの紹介および「技能実習生の側からみた満足・不満足の分かれ目」 KOKORO記事の中に私の連絡先があり、それをご覧になったJICA中部の方と宍戸さん(JICA理事長特別補佐/JP-MIRAI事務局)が3年前、JP-MIRAI立ち上げに際して会員になりませんかと直接勧誘に来られたんです。それがきっかけで入会しました。 Q. JP-MIRAIでは、会員企業・団体に、「責任ある外国人受入れのための5つの行動原則」(https://jp-mirai.org/jp/code-of-conduct/)を実践して頂くよう呼び掛けています。下記の行動原則に関連する取り組みを教えてください。 行動原則2「外国人労働者の人権を尊重し労働環境・生活環境を把握し、課題の解決に努めます。」の実践をしています。昨年11月18日の「会員活動報告会」では、私に相談してきた外国人の事例紹介および私の課題意識について発表させて頂きました。 Q. 榑松さんが外国人の相談を受け始めた経緯を教えて頂けますか? 2007年に愛知県のベトナム人研修生が横浜の教会に逃げ込むという事件がありました。これが当時愛労連の事務局長を務めていた自分のところに連絡があり、この相談を受付けたのが始まりでした。それはこの研修生にとどまらず、100人のベトナム人研修生が強制帰国させられるという事件だったのです。この研修生たちが話を聞いて愛労連に駆け込んできました。 私が入国管理局(以下入管)に話を聞きに行ったところ、入管曰くこの会社では適正な研修が受けられないから帰国してもらうというのです。驚いたのですが、入管から渡されたガイドラインには、研修先に不正があった場合、研修生を帰国させる(帰国指導)と書いてあったのです。 また彼らは時給300円で働かされていたのですが、当時一年目の研修生は労働基準法の適用外となっていました。私は1カ月かけて様々な資料を揃え国会でこの問題を質問してもらいました。そこで厚生労働大臣が「そのようなことがあってはならない」と答えたのです。この大臣答弁後すぐ、100人の研修生は強制帰国を免れ、全員他の会社に移籍することができたのです。この年末にはガイドラインが改正され、研修先に不正があった場合、他の研修先に移籍できることになりました。 この話が外国人の皆さんに伝わると、途端に次から次へと私に電話がかかってくるようになりました。当時は研修生を時給300円や400円で働かせているところがあちこちにあり、マスコミも取り上げるようになりました。これが社会問題となる中で、2009年7月の国会で入管法が改正(2010年7月施行)、1年目から実習生として最低賃金など労働法が適用されるようになったのです。 その後しばらくは相談が減っていたのですが、2015年頃から外国人実習生からの相談が増えてきました。2022年は年間50件の相談でしたが、その前年(2021年)の相談は年間98件に上りました。 このうちコロナ禍で帰国する飛行機代が高騰し、全額を払ってもらえないという相談が30件ありました。法務省に聞くと全額受入れ機関が出すべきだと言うのですが、技能実習規則には、受入れ機関は「円滑な帰国に努めること」としか書いてありません。これでは外国人技能実習機構や入管の現場では法務省の方針をいちいち受入れ機関に説明しなければなりません。そこで法務省に要請し、法務省のホームページに「監理団体が帰国旅費の全額を負担」と書かれるようになったのです。 地方の現場職員は中央省庁に意見を言えません。私は彼らの声を聞いて中央省庁に伝えることが多いです。 Q. 多い時で年間100件近くの相談を受けられているとのことですが、これはすべて無料でしょうか?無料であれば、それほどの膨大な作業をこれほど長く続けられているモチベーションを教えてください 全て無料で相談を受けています。スマホ1本ですので、経費はほとんどかかっていません。6か国語の通訳さんがいますが、彼らにも無償で手伝ってもらっています。もちろん、時間だけはかかります。けれども、もともと私は労働組合で労働相談もやってきましたし、生活保護裁判の事務局長もやっています。いろいろ困った人が私のところに来ます。 また、自分も貧しい農家の出なので、30年前にベトナムに行ったときに自分の貧しいころを思い出したのです。ベトナムの農家の子たちが出稼ぎに来る状況は、昔の自分とかなり共通する面もあったのです。ですから、今の外国人の技能実習生を見ると、いろいろ感じるものがあります。 Q. 榑松さんは外国人の相談を受ける中で、どのようにその相談に対応しているのですか。その中で感じられることをお話いただけますか? 私は個別の企業とは折衝せず、すべて外国人技能実習機構に私が実習生の代理人となって申告します。労働基準法に抵触する問題がある場合、労働基準監督署は本人しか申告を受付けないので、申告書に連絡先として私の名前を書いてもらいます。その中で、実習機構や労基署と連絡・調整して指導してもらっています。 技能実習法ができてから実習機構や入管に提出する書類がとても多くなり、書類処理に追われて個別の調査に行くことがなかなかできていません。この5年ほどで実習生が2倍になっても職員は2倍には増えないのです。そして、機構に提出される書類に嘘が多いこともみんな知っています。海外では10万円出せば大学卒業証明書も作ってもらえます。でも機構職員がその真偽を審査することはとても困難です。私は実習機構の職員の皆さんがとても忙しいことを知っているので、彼らが困難な調査をしなくてもいいように、必要な証拠を全部集めて実習機構に提出します。そうすると彼らも動きやすくなるのです。 こうして集めた事実関係を整理して、制度改正の意見書を出し、本を書いてきました。2016年の技能実習法審議では法務委員会公聴会で意見陳述を行いました。 技能実習制度について感じる問題点は、機構が監理団体をきちんと監督できていないこと、監理団体も受入れ企業を監理できていないということです。実習機構は全国3,500の監理団体を1年に1回、6万5千の受入れ企業を3年に1回定期監査しなければならないのですが、実際には回り切れていません。実習生の受入れ企業は労基署も入ることができますし監督しやすいのですが、監理団体は事務所に行っても書類調査しかすることができません。 監理団体は非営利ということになっていますが、実際には営利目的のところも多いと思います。また、実習先として農業・建設・食品が急激に増えたため、監理団体が産業の実情をよく知らないという問題もあります。 例えば農業でどうして不正が起きるか。農業では気温の高い日が続くと農作物の育ちが早くなり、実習生が休みなしで収穫するということが起こりえます。そんなことは東京の監理団体にはわからないし、実習生が倒れても何もできません。 建設業では大きな声で指示することがよくあります。日頃、実習生を「ガイコクジン」としか呼ばない職場で、わからない日本語で、大声で言われると「怒鳴られた」と受け取ります。日ごろのコミュニケーションが大事なのです。日ごろから社長が実習生を彼らの名前で呼び、ゆっくりとわかる言葉で話していれば、大声で指示されたとしても彼らは怒られたと思わないのです。そういうことを監理団体が指導できないから「暴言」さらには暴力となり、結果として実習生の失踪者の5割が建設業(令和3年)ということになるのです。 こういう実態を知ると、実は実習生をめぐる問題は産業別の課題が大きいということになるのです。厚労省と法務省だけの課題ではないのです。 この問題意識のもとに、私は産業を管轄する省庁とも話し合いを始めています。経産省には厚労省と法務省と私の三者で縫製業の実態を説明しました。建設業であれば国交省、農業であれば農水省が今後改善の努力をしていかなければならないと考えます。 Q. 榑松さんは現在技能実習制度見直しの議論に参画されていると伺っています。その中で思うことを教えてください。 先に紹介した「コロナ禍の外国人実習生: 外国人実習生SNS相談室より」の本を出版した後、それを持って厚労省と法務省と技能実習制度について意見交換しました。その中で彼らと技能実習制度について意見交換しています。彼らからは産業別雇用政策の重要性には同意できると言われました。また、監理団体に対する監督強化という点でも一致しています。 一方で、現場における実務量過剰、職員不足という問題は続いています。これを解決していかなければいけないのですが、機構職員は3年で出向元に戻るという慣習があり、人材が育たないという問題があります。 Q. JP-MIRAIおよびJP-MIRAI会員への期待を教えてください。 JP-MIRAIに期待するのは受入れ企業の教育です。特に農業、建設、介護。この3つの産業はどうしても外国人労働者が必要です。この3つの産業は機械化できません。言葉のトラブルも多いです。きちんとした受入れのためには、外国人に対する教育だけではなく受入れ企業の職員に対する教育をしてほしいと思います。国は、外国人に対する教育は一生懸命指導しますが、受入れ企業の職員に対する教育はほとんど指導していません。 日本人がすぐ辞める介護の職場は人間関係の問題が共通しています。管理職から職員に対する言葉遣い、非常に厳しいしかり方、早口での指導などもあります。これでは外国人もすぐに辞めてしまいます。 建設現場では「大声」と「怒鳴る」の違いを知らないといけません。ゆっくりした言葉で、ジェスチャーもいれて「ア・ブ・ナ・イ」を教えれば大声で言っても「暴言」にはなりません。本来はこういった指導を監理団体がやらないといけないのですが、建設業を知らない監理団体ではできません。その中で問題が深刻化し、日本が外国人労働者から選ばれなくなることに危機感を持っています。知り合いのベトナム送り出し機関は、もう実習生を建設業に送らないと言っています。 <インタビューを終えて> 榑松さんには、お忙しい中長い時間をこのJP-MIRAIの取材のために割いていただきました。年間100人もの外国人の相談に対応し、無償で救済にあたる榑松さんの活動に心から驚くと同時に、現場で活動する榑松さんならではの、制度論にとどまらない現在の日本の外国人労働者受入れの問題を伺うことができました。この場を借りて感謝申し上げると共に、JP-MIRAIとして榑松さんのご意見を今後のJP-MIRAIの活動にしっかりと活かしていきたいと思います。...

本企画では、会員各位の外国人受入れに関連する事例を紹介しています。 第15回でご紹介するのは、佐賀県です。佐賀県では、平成26年度に“佐賀県国際戦略”を策定し、その中で内なる国際化(多文化共生の地域づくり)を重点分野と位置づけ、様々な施策を行っています。外国人労働者に関わる事業としては、外国人に関する総合相談窓口(多言語コールセンター含む)であるさが多文化共生センターの設置・運営、防災セミナー、日本語教育の体制づくり、やさしい日本語の普及・啓発、地域での交流機会の創出や企業と連携した受入環境づくり等を佐賀県国際交流協会と協力しながら実施してきました。 今回は佐賀県地域交流部国際課長の井崎 和也様にお話を伺いました。 地域交流部国際課長 井崎 和也様 Q.  佐賀県地域交流部国際課のプロフィールを教えて下さい。 平成27年頃から、技能実習生を中心とした外国人が佐賀県にも多く入ってこられるようになり、外国籍住民の数が飛躍的に増加しました。そのような状況の中で、地域住民と外国籍住民の方々とのコミュニケーションがうまく取れないといった問題が生じてきました。平成27年には、東京外国語大学の協力を得まして、外国籍住民及び地域住民を対象に調査を行いましたが、調査結果においても、同じような問題が顕在化していることが分かりました。 参考:佐賀県外国籍住民アンケート調査、佐賀県における多文化共生に関する調査報告書 それに対応して、佐賀県ではこれまで行ってきた生活支援に加え、コミュニケーション支援として、地域での日本語教室の取り組みを活発化することで、地域日本語教室を核とした地域における顔の見える関係作りを目指してきました。 その後も外国人の数は増え続け、地域課題だけではなく、産業分野における課題も増えてきたため、対応を各企業や民間に任せきるのではなく、多文化共生の観点から、政策として取り組むべきだと問題提起が出されたのが、令和2年の初旬になります。 行政としてこの課題にどう向き合うのかについて半年間に渡り検討を重ね、同年の12月、国際戦略本部会議にて一つの方針を決定いたしました。 それは現在地域で取り組んでいるコミュニケーション支援を活用しながら、今後は産業分野において働く環境整備が必要であることから、受入れ企業側にも多文化共生を理解していただき、外国人が早期に馴染めるような、そのような働く環境の整備に我々も積極的に関わっていこうということです。 併せて、地域での顔の見える関係を築くための交流の機会作りにおいては、地域日本語教室の活動と合わせて積極的に行っていき、その双方を上手く実行することによって、外国人の方が地域に融合していくというような形で、地域づくりに取り組もうと動き出しました。 また、令和3年4月には、多文化共生については一つの係として独立させ、集中的に取り組んでいこうと、職員を増員して業務を進めています。 Q. 受入企業、外国人労働者に向けて行っている具体的な活動を教えてください 多文化共生のマインドを広めていくという取り組みに関しては、受入企業に対しては、私たちが企業へ赴いたり、逆に依頼を受けて多文化共生に関するセミナーを開催したり、双方向からの形で進めています。一方で外国人の方が入ってこられたら、生活オリエンテーションだけでなく、受入れ側の社員等へのやさしい日本語の講座もそこで一緒に行うなどしています。 また、地域でのコミュニケーション円滑化のためのツールとして、やさしい日本語の教材動画を作っているのですが、そういったものを社員教育のために使っていただいている企業もあります。 参考:やさしい日本語動画(入門編・基礎編・実践編) 受入れ側と入ってくる側、双方に対して我々が積極的に関わっていくことで、問題が起こらないようマインド醸成のための、言わば営業活動のようなことを中心にやっています。 もちろん雇用管理セミナーのようなところで我々が登壇して働きかけるというのもありますが、そういった集合研修では人権問題というのは知っていて当然という前提であり、持つべき人に本当にマインドが醸成されたかがわからないことから、そこからもう一段階踏み込んで、企業に赴いたり、企業の中におられる外国人に直接オリエンテーションなどを行うことによって、その場で終わりではなく、当事者たちが次の行動に自分たちで繋げていくというところまでフォローしています。 Q. 外国人に関する総合相談窓口(多言語コールセンター含む)について教えてください。 電話相談窓口の多言語コールセンターでの対応は21言語で行っております。また、対面での対応ということになると、佐賀県はベトナム国籍の方が非常に多いため、令和元年の7月から国際交流員としてベトナム人を雇用し、対応にあたっております。 ベトナム人国際交流員のファン グエン アン トゥイットさん(写真左) Q. 活動を続けていて、受入れ企業側が変わってきたと感じられる点はございますか。 私達が関わっている企業の中には、変わられていっているところも少なからずありますが、外国人を雇用されている企業は県内に1,000近くありますので、その全てがどうかという話になると、まだまだなのかもしれません。 ただ、私たちは地域全体を丸ごと作っていこうということを目指して活動しているので、企業内での働く環境整備だけではなくて、外国人の方が企業の近くの地域の方々と交流して、地域と密着して生活することができていれば、何か私たちが目指している本来の形に近づいているのではないかと思っています。 Q. 今後はどのような展開をお考えでしょうか。 受入れ企業に対して、コンサルティングのような形で、伴走支援という仕組みを作っていくことを考えてます。今の営業活動の延長線上にはなりますが、やはり企業側のマインドの醸成やそれと合わせた働く環境整備を企業側が自ら整えていけるよう、私たちが寄り添って支援していくような仕組みを作れないかと考えています。 そういった取り組みをこれまでも行ってこられた優良企業がありますので、そういった事例をお伝えしながら、自分たちの力で、自分たちの取り組みに変えていこうとする企業を、私たちがお手伝いすることを考えています。 Q. JP-MIRAIおよびJP-MIRAI会員への期待をお聞かせください。 JP-MIRAはプラットフォーム組織なので、難しいのかもしれませんが、優良事例を指し示すだけでは、なかなかマインドの醸成まではいかないと思います。佐賀県内でも働く環境整備等を行っている企業がいらっしゃいますので、例えば、そういった企業の経営者の方とネットワークを構築していただくとか、また、やはり人権問題なので、雇用する受入れ側の経営者の方や人事担当の方へ実現可能なレベルで理解を促進する必要があると思います。 他には、当地域で何かワークショップのようなイベントを開催していただいてもよいかもしれません。 地域での日本語教室やセミナーなど「交流」といったような言葉を使うと、非常にハードルが高く聞こえてしまい、大きなイベント実施を想像しますが、私たちが普段行っているのは、外国人の方と地域住民の方とのお喋り会のようなものなのです。特定技能で入ってこられる方とか、留学生もそうですが、ある一定程度の片言でも日本語が使えたり、やさしい日本語で会話ができるということをベースにして考えると、地域の方々が、一旦その外国人と日本語である程度コミュニケーションができるようになると、ハードルが圧倒的に下がるのです。 何か地域のためにテーマのある交流機会を作らなければいけない、ということでなくて、実際に対面でお話をする機会を作ってハードルを下げる、普通に喋れる状況を作るということが意外と大事なのかと思います。 <インタビューを終えて> 井崎様には、日々の業務で大変お忙しい中、取材に応じていただきました。取材中何度もお話されていた「現場レベルでのマインドの醸成」を常に意識して取り組みをされている姿勢に胸を打たれました。また、佐賀県では、ウクライナ難民者支援においても、身寄りのない方に対し、自治体やNPO職員が身元引受人になって対応している状況なども伺い、改めて佐賀県の多文化共生に対する取り組みの本気度を伺うことが出来ました。この場をお借りして感謝申し上げます。JP-MIRAIとしても、引き続き多くの自治体の皆様のモデルとなるような活動を目指してまいります。...

本企画では、会員各位の外国人受入れに関連する事例を紹介しています。 第14回でご紹介するのは、公益財団法人沖縄県国際交流・人材育成財団(OIHF)です。2021年には「多文化共生推進アライアンス認証制度」を開始し、沖縄県内の外国人労働者の生活や雇用環境を向上させようと日々取り組んでいらっしゃいます。 ※「多文化共生推進アライアンス認証制度」とは、厚生労働省沖縄労働局及び出入国在留管理庁福岡出入国在留管理局那覇支局との3者間で締結した「在住外国人の労働・生活環境向上に向けたパートナーシップ協定」を基盤としたプラットフォームである「多文化共生推進アライアンス」による、「適正な労働環境と雇用管理の確保等、外国人労働者の労働・生活環境の改善に責任を持つ企業や団体」の認証制度です。 参考:多文化共生推進アライアンス制度 今回は国際交流課課長・根来全功様、主幹・葛孝行様にお話を伺いました。 同財団は2020年に会員としてJP-MIRAIに参加され、2021年度下半期活動報告会での発表では会員相互の票にて優秀賞にも選ばれています。             国際交流課課長 根来 様                        主幹 葛 様 Q. 公益財団法人沖縄県国際交流・人材育成財団(OIHF)のプロフィールを教えて下さい。 当財団は、特殊法人琉球育英会を前身として、平成12年に沖縄県国際交流財団と沖縄県人材育成財団とが合併してできた組織です。財団の職員は全体で36人程おりますが、国際交流課は6人の職員で運営しています。 参考:国際交流課のHP Q. 沖縄県が現状抱えている課題はどのようなことがありますか? 1つ目は、県内で働く技能実習生に関わる問題です。ここ数年で技能実習生が飛躍的に増えているのですが、そのような中で、以前、文化庁の事業の一環で、日本語教育に携わる外国人定住者にヒアリングを行いました。その結果、就業先は送出し機関が決めており、どこに行くかが直前まで分からないケースもあり、さらに、県内在住者の中には、必ずしも沖縄を選んで来ている方が多いわけではないという実態がみえてきました。 2つ目は、永住化、定住化、高齢化に関する問題です。他県に比べて傾向が特に顕著な点として県内には米軍基地が点在しており、基地内外に住む約5万人の軍人・軍属がおり、彼らは日本の住民票は持たず、また、中には高齢化しリタイアした後も沖縄に住み続けている方も多くいます。その方々が、日本語が分かる配偶者を亡くされて孤独化し困難に直面するケースもあり、問題は多岐に渡っています。 また、当地は海外からの旅行客も多く、観光産業が盛んです。同産業は経済的には県に貢献している一方、外国人労働者という側面で考えると、必ずしもそこで働いている外国人が良い待遇を受けているわけではない、という点も課題の一つです。 Q. そのような課題を抱える中で、多文化共生推進パートナーシップ(出入国在留管理庁・厚生労働省沖縄労働局)協定締結に至った経緯を教えてください。 国際交流課では、2019年から外国人からの相談を受け付けています。労働に関係のない生活に関する相談もありますが、労働に関する相談を聞くと、労働者側だけの問題だけではなく、雇用主側が労働法をあまり理解していないということも、一つの要因として挙げられることに気が付きました。双方に、雇用に関する法や決まりを浸透させることが、解決に導く手助けとなりますし、相談に至るようなケースを少しでも減らしたいと考え、多文化共生推進パートナーシップ協定を結びました。 協定を結ぶにあたって、我々自身が労働法や労働基準法を100%理解しているわけではないため、外国人労働者から相談を受けた我々が相談をできる機関が必要と考え、当初から在留管理庁、労働局に同協定の構成員として参画してもらおうと進めていました。 協定の概要はこちら Q. 多文化共生推進アライアンス認証制度開始後の反響や活動を進めていく上での方針はございますか? 我々としては、協定の意義をご説明し、賛同してくれる企業に絞って、就職マッチングなどを行っています。誰でも会員になれるとすれば当然会員数も増えるでしょうが、我々が考えていることはそういうことではありません。場合によっては、労働条件通知書や雇用契約書を確認させてもらい、是正が必要なものには助言を行い、それを改正していただいたりもしています。 時間はかかりますが、しっかりと審査をし、賛同していただける企業さんに会員になっていただくというスタンスは曲げずに行っています。 Q. 考えに賛同してくれる企業の特徴などはありますか? 既に外国人を雇用している企業に話をしてみたところ、一概に企業の大小や、業種、経営状況などの決まった傾向は見られず、むしろオーナーの考え方、企業体質によるところが非常に大きいということが分かってきました。 我々は賛同をしたいと手を上げてくれる企業に対しても、必ず実際に訪問し、雇用主や外国人労働者の声を聞いた上で、事業全体の説明をし、それに賛同してくれる企業のみ加盟を認めています。最近分かってきたのは、加盟企業の方々から「加盟することでデメリットってないよね。」という声をいただき、加盟した企業の正当性が対外的にもより際立って見える状況だということです。 Q. 事業の一つである外国人相談窓口について教えてください。 2019年度から開設しており、現在、市役所や役場内の外国人がよく訪れる窓口に、多言語でのチラシを設置し告知をしています。相談内容は生活に関わることから仕事に関することなど多岐に渡り、毎月20件程度問合せがあります。その中で労働問題に関することは、年間50件程度で2番目に多いです。労働問題は、一筋縄ではいかないことも多く、弁護士会とも相談したりと長期化したりすることもありますが、我々としては、雇用主、外国人労働者双方の話を聞き、一緒に解決の糸口を探りましょう、というスタンスで対応しています。 Q. 会員間の新たな人脈づくりなどについて考えていることはありますか? 新規団体の紹介やニュースレターの配信、求人情報提供依頼など行い、会員専用HPに掲載を行っています。SNSでの交流なども今後は検討したいと考えています。 Q. 外国人労働者との相互理解や信頼関係を醸成する「リーガル・ライフサポーター養成講座」について教えてください。 相談窓口を開設している中で、職員だけでは言語対応の限界があるため、外部支援を募る目的で始めました。これまで2回開催しましたが、毎回50名程度に講座を受けていただき、修了試験に合格した方のみ認定しています。試験に合格する方は毎回10名以下程度で、合格者はレベルが高い方が多く、法廷通訳も出来るような方もいらっしゃいます。 リーガル・ライフサポーター養成講座詳細 Q. 多文化共生推進アライアンス認証制度を運用している中での苦労と気づきを教えてください。 毎回新しい企業に直接お伺いし、事業の説明をしていますが、企業の担当者の方に話をさせていたくと、肯定的な反応を示していただき、すぐにでも加入してくれそうな様子で、「すぐ社内で検討します。」と言っていただけるのですが、その後、しばらくしても連絡がなく、こちらからお伺いすると、「今回は見送りたい。」との回答があったりと、心が折れそうなことも多々あります。しかし、沖縄県内の多くの企業が、同じ方向性を向いて進んでいけるよう、根気良く続けていきたいと考えています。 Q. JP-MIRAIおよびJP-MIRAI会員への期待をお聞かせください。 元々、JP-MIRAIの活動を参考に、多文化共生推進パートナーシップ協定の締結に向けて取り組みを開始したため、我々と同じような考えの下、一つでも多くの県や地域の方々が、新しい取り組みを実施していこうと感じるような、魅力的な取り組みをこれからも展開していってほしいです。 <インタビューを終えて> 根来様、葛様には、ウクライナの避難民受入れでも非常にお忙しい中、取材に応じていただきました。信念を貫きながら、事業の立上げから周囲への理解・浸透に尽力し、常に前向きに活動をされている様子を伺うことが出来ました。この場を借りて感謝申し上げます。JP-MIRAIとしても、引き続き多くの自治体の皆様のモデルとなるような活動を目指してまいります。...