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外国人とともにつくる未来――外国人支援のささえ手インタビュー

杉田 昌平さん(弁護士法人Global HR Strategy)

弁護士ならではの横断的な支援で、外国人材を活用する企業を支援する

 少子高齢化による労働生産人口の減少や、経済のグローバル化により、外国人材の積極的な受け入れに舵を切る企業が増えています。そうした企業を法律家として支援しているのが、弁護士法人Global HR Strategyの杉田昌平さんです。在留資格手続きから税務、社会保険労務まで、横断的なリーガルサービスを行うことで、企業が安心して外国人を雇用できるように支援を行っています。杉田さんはどういうきっかけで、外国人雇用の業務に関わるようになったのでしょうか。この分野の弁護士業務のやりがいや将来性についても熱く語っていただきました。
(ライター:金子恵妙)


プロフィール

杉田 昌平(すぎたしょうへい)さん(弁護士法人Global HR Strategy代表弁護士)

1985年、栃木県生まれ。慶應義塾大学大学院法務研究科特任講師、名古屋大学大学院法学研究科日本法研究教育センター(ベトナム)特任講師、ハノイ法科大学客員研究員、法律事務所勤務等を経て、現在、弁護士法人Global HR Strategy 代表社員弁護士、独立行政法人国際協力機構国際協力専門員(外国人雇用/労働関係法令及び出入国管理関係法令)、慶應義塾大学大学院法務研究科・グローバル法研究所研究員。

ベトナム赴任をきっかけに、企業の外国人雇用支援の道に

――弁護士の方で出入国管理及び難民認定法(入管法)を専門に扱う方は珍しいように思いますが、もともと国際分野に興味があったのですか。

 弁護士としての自分の得意分野は国内の製造業で、弁護士となって数年は、事業再生やM&Aが業務の中心でした。ただ、父が地方国立大の農学部の教員だった関係で、先進国以外から来る留学生が日本で就職することの難しさや、日本に滞在するための「在留資格」に関する苦労があることは知っていました。それで、弁護士2年目には、在留資格手続きを行うのに必要な「届出済証明書(ピンクカード)」を取得して、当時助教をしていた大学や近くの大学の留学生と一緒に入管に手続きに行くこともありました。

――外国人雇用に関わる分野にシフトしたきっかけは?

 ベトナムに2年赴任したことです。父がモンゴルで技術支援をしていたこともあって、もともと自分も新興国に行ってみたいという気持ちを持っていました。弁護士として3年働いた頃に、名古屋大学が海外で展開しているプログラムの教員募集を見つけ、それに応募してチャンスをいただきました。ハノイの国立大の学生に日本の法律を教えながら、ベトナムの法律に触れたり、ベトナムから日本へ技能実習生を受け入れる機関に取り次ぐ「送り出し機関」の実情を知れたりしたことは大きかったと思います。

――外国人雇用に関わるきっかけとして具体的にはどんな経験をされたのですか。

 赴任したのが、2015年から2017年ぐらいで日本の製造業では人手不足が深刻になっていました。ベトナムの優秀な人材を採用しようと現地の大学で日本企業が企業説明会を開くところもあって、そこに来ていた企業の方から申請手続きを依頼されたことがきっかけとなりました。企業法務という立場で、入管法を扱うようになったというのが表現として正しいかもしれません。目指そうと思ってこうなったわけではなく、ここに流れ着いたという感じですね。


教え子の同世代の子たちが、円滑に日本に来て働けるように

――現在の仕事の状況は?

 日本では、外国人雇用の在留資格等を扱う弁護士がほとんどおらず、企業からの依頼は増えています。弁護士は在留諸申請だけではなく税務や社会保険労務の手続きも代理できます。送り出し側であるベトナムの法律も見ながら、入国前から日本にいる間、さらに出国するまでの法定手続きの一切合切に対応できる点が強みです。

――収入面では、もともと得意とされていた事業再生とかM&Aの方がいいのでは?

 収入の面では他の分野に見劣りするということはないように思います。事業再生などの分野では、私よりもキャリアのある人たちがすでにたくさんいて、私が大きな仕事を任されるようになるのは、20年後ぐらいではないでしょうか。でもこの分野だと、上に誰もいない。自分で業務を創っていく必要はありますが、フロンティアに立ち続けることができれば、自然と選んでもらいやすい状態にあると思います。

――仕事を続けるうえでのモチベーションは?

 日本で働く外国の方が法令を遵守して、円滑に移動できて、円滑に働けたらという思いですね。ベトナム時代の教え子と同世代の若者が、日本に来たいと思ったら、日本に円滑に来られて、日本で働く間、問題なく過ごし、帰国も円滑であってほしい。そうした土台があったうえで、自分の会社が好きになるとか、その地域が好きになるとかなればもっといいと思います。ただ、今はまだその土台の部分でみんなが消耗してしまっています。だからこそ私はそこを頑張りたいし、手続きが滞りなく、早く、安く、大量にできるようにしたいなと思っています。


企業側も外国人も「早く言ってよ」と思っている

――そこがスムーズにいかないのは、なぜだと思いますか。

 今は、企業の人も、日本に来る外国人も「先に言ってよ」という状況で、そこが問題でないかと思っています。企業には人事部があって、大抵そこには労務に詳しい人が1人はいる。ただ、外国人雇用はそうはいかない。「外国人を採用するから同じようにやって」と頼まれて採用したとします。でも、日本人社員と同じように、在留資格の変更なしにグループ会社に転籍させたら、在留資格によっては一発で不法就労になってしまうわけです。人事の人は法律を破りたかったわけではないし、その本人にとっても不利益な話です。

――年金脱退一時金制度※1を知らないまま帰国する人もいます。

 日本で年金保険料を払っていた外国人は、帰国する時に支払ったお金の一部を還付してもらえる制度があるのですが、その制度があること自体を知らない人もいます。私の弁護士法人では脱退一時金や税還付などもまとめて対応していますが、こういう話は所属先などが最初に説明しておくべきだと思います。実はベトナム人の方に脱退一時金の説明をTikTokでやってほしいって言われて、作った動画を1つ上げています(笑)。留学生の場合の年金の学生納付特例※2も同じで、申請しなかったことで、後々の在留資格変更許可に影響することもあるから注意が必要です。教育機関や所属機関には、そうしたことをしっかり本人に説明してほしいと思います。

  • ※1:年金脱退一時金制度
    日本国籍でない人が、国民年金、厚生年金保険の被保険者(組合員等)資格を喪失して日本を出国した場合、日本に住所がなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求することができる制度
  • ※2年金の学生納付特例
    学生が、申請により保険料の納付が猶予される制度。同制度を利用することで、将来の年金受給権の確保だけでなく、万一の事故などにより障害を負ったときの 障害基礎年金の受給資格を確保することができる。
――職場のルールとか文化も国によって違いますね。

 よくあるのが、ベトナムの実習生が企業側に「有給買い取ってください」と言ってくるケースです。日本では有給休暇は取得するか、失効するかどちらかなので、「権利主張しすぎじゃないの」と思うかもしれません。実はベトナムには有給買取権があって、彼らには普通のことです。違いがあるという前提での相互理解がどれだけできているかが重要で、そこができていないと無駄な喧嘩になってしまうと思います。


外国人人材を活用する企業には、コーディネーターを

――企業側も外国人人材の対応に慣れてないですから、対応が大変だと思います。

 本当にそう思います。それを反映しているのが、私たちの事務所に届く企業の担当者さんからの問い合わせの数です。毎日20から50の質問がひっきりなしに来る状態です。まるで外国人雇用関係のサポートデスクのようです。質問の内容も被ることが多くて、そうした質問にはすぐに答えられるようテンプレートを用意しているくらいです。これだけ質問が被るならと、制度の説明や一つひとつの手続きを説明する動画教材を自分で作っているところです。

――企業が受け入れ態勢を強化するには何をしたらいいですか。

 今必要なのは、各企業に問題解決のためのコーディネーターを置くことだと思います。そこまで専門性はなくても、その問題は誰に解決してもらえばいいのかを判断でき、それを専門職などに繋げる人です。企業側が内なる多文化共生を進めるためにレセプターというか媒体になる人ともいえるでしょう。


「社会をこう変えたい」と言いながら仕事ができる

――多忙な毎日かと思いますが、仕事が嫌になるようなことはありますか。

 ないですね。今はひっきりなしに企業から問い合わせが来る感じで、そこで必要性が高いことをしていると感じられるからかもしれません。それも、自分で選んでというより、巡りあわせでこうなっている。だから自分がこれをやらなきゃいけない人なんだろうなと感じています。

――この分野の仕事の魅力はどんなところにありますか。

 日本で、こんなに急拡大しているマーケットは他にないと思います。日本の国内で働く外国人は増え続けていて、それだけ需要が強い分野だと思いますし、何よりも社会をこうやって変えていきたい、と言いながら仕事をつくっていけるのは、他にはあまりないと思います。こんなフロンティアみたいな分野がまだ残っているということを不思議にさえ思うほどです。


「なんだ同じじゃん」でフラットな向き合い方に

――今後、ご自身で取り組みたいことは?

 この分野に強い弁護士等の専門家を増やしたいですね。ただ、私が20年弁護士の養成に携わったとしても、育てられる数は限られており、「焼石に水」というところはありますが。最近は、在留資格手続きのニーズの高まりから、行政書士の先生が企業の人事部に配置されるような例や、大手だと総務部に外国人支援担当がおかれているところも出てきているようです。そうした動きが進めばいいと思いますし、できれば人事担当の人は、雇用する外国人の出身国を見に行くといいと思います。
私がベトナムに行って良かったのは、朝起きて、仕事や学校に行って、家に帰って、家族に会ってという人の営みはどこに行ってもさほど変わらないし「なんだ同じじゃん」と思えたことです。相手は被害者でもないし、お客さんでもないし、上から見る対象でもない。そう気づくことで、相手とフラットな関係を築けると思います。

――日本はもはや「選ばれる国」ではないという意見もありますが。

 実際は、この瞬間も日本が働く場所として、選ばれ続けているとは思います。高いお金を払ってでも日本に来ようというベトナム人は今もいます。ただ、10年前と比べると選ばれる度合いは下がっているし、徐々に選ばれなくなってきているともいえます。求人1人に対して、10年前なら10人以上集まったところが、今は3人ぐらいという感じではないでしょうか。そこでどうするかですが、この分野は国が旗振りをするにも裾野が広すぎるように感じています。地方の生産農家から大手の自動車製造企業まで含まれるわけですから。まずは、それぞれの現場で相互交流を図りつつ、日本語教師や大学職員なども含めた外国人支援に携わる人たちが、基本的な在留資格手続きについて知っておくことも大事ではないでしょうか。


インタビューを終えて

誰かに必要とされることは、多くの人が想像する理想のキャリアだろう。杉田さんは、まさにそれを体現している。毎日何十もの問い合わせが自分宛に寄せられるというのは、想像するだけでも嬉しい気持ちになる。国境を超えた法律のプロは、そこに至る数々の困難を一気に忘れさせてくれるほど爽快な楽しさがあるのだろうと、杉田さんの話しぶりから感じ取りました。日本で働く外国人の数が年々増加する一方、在留資格や雇用管理、税・社会保険料などに精通した専門家が増えているとは言い難いでしょう。私たちの社会が多文化共生を健全に実現する上でも、世界の人々が一層協力し合える世の中を作る上でも、グローバルな法律家の誕生は不可欠だと思いました。

株式会社ソーシャライズ代表取締役社長 中村拓海(なかむらたくみ)
1990年東京都生まれ。一緒に学ぶ留学生が就職活動に失敗し、帰国していく様子を見て大学時代に起業。留学生の就職支援と外国人雇用のコンサルティングを行う。外国人の採用・定着や自治体の外国人受け入れに関するセミナー政府機関向けの調査・提言、大学でのシンポジウムのファシリテータ―、日本起業と留学生のマッチングに関するレポート執筆など、活動の幅は多岐にわたる。お坊さんによく間違えられるが、世界各国のお酒に目がない。
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