外国人にとってもっとも身近な法律職が行政書士ではないでしょうか。海外支援を行うNGOでの勤務経験から、結婚後に自分が住む地域に目線を移し、行政書士として活動しているのが、神奈川県川崎市の笠間由美子さんです。国際業務、在留資格・国籍手続業務を通して外国人に寄り添うやりがいや、そこで感じる日本社会の課題について話していただきました。
(ライター:金子恵妙)
笠間 由美子(かさまゆみこ)(行政書士)
もともと大学で国際関係とかエスニシティ、アイデンティティなどを勉強してきて、それを活かした仕事をしたいと思っていました。新卒でIT企業に入社し、それから途上国支援を行っている「プラン・インターナショナル」というNGOで、国内で資金調達を担当するファンドレイザーなどの仕事を担当していました。
結婚した後、自分が住む川崎市で「地域での国際協力」がしたいと思うようになって、何ができるかと考えていた時に、夫と散歩中に「行政書士のビザ無料相談」のチラシを偶然目にしたんです。それで調べてみると、これは面白そうだなと。それで試験を受けて2回目で合格し、40代で開業しました。
もともと私は富山の出身で、地域の繋がりが濃いところで育ちました。富山にいた頃は、そうした環境を窮屈だと思っていました。でも、NGOで途上国支援に携わると、コミュニティ開発のためには、そこに住む人たちが一緒に自分たちの問題を考え、動くことが大切なことを知りました。富山のあの近所づきあいはコミュニティのベースになっていたのだと気づき、地域に目が向くようになりました。あと、援助とか支援っていうと、どうしても上から目線になりがちですが、実際に海外出張で現地の人に会うと、本当にパワフルな人が多くて、彼らが持っているものを活かしたコミュニティづくりが大事だし、それは日本でも同じだと考えたんです。
自分のこれまでの経験と興味を掛け合わせた時にやはり、在留資格や出入国、国籍の手続きを通して外国人支援をしたいと考えました。外国の方にとって在留資格ってライフラインのようなものですから、そこでなら、いろんな貢献ができると考えたからです。そもそも地域での国際協力がしたくて取った資格というのもあって、今は川崎市の外国人の力を使って川崎のまちを活性化しようという取り組みにも足を突っ込んでいます(笑)
しっかり寄り添って、しっかり話を聞いて、何をどうしたいのかを把握し、そのうえで、入管法の知識や経験則を使って、こんな方法があるという選択肢を提示します。依頼者の人生にも関わることですから、誤ったことを言ってはいけないし、選択肢を落としてはいけない。そう肝に銘じて、一つひとつの相談に丁寧に対応するようにしています。
在留資格が取れて、涙を流しながら喜んでくださった瞬間ですね。在留資格の手続きは本来自分たちでできるもの。それをわざわざ行政書士にお金を払って頼んでくるのは、自分たちだけでは許可がもらえない事情があるからです。そこで苦労してでも在留資格が取れたことで、日本で安定した生活ができたり、会社で働けたりするわけですから、ある意味夢を実現するお手伝いができていると言えますから、そこはやりがいです。
ホワイトな外国人雇用の仕組みづくりと、多文化共生社会づくりへの貢献です。前者については、2つのきっかけがあります。1つは、開業2年目にネパール人留学生から「騙された」と相談を受けたことです。闇ビジネスで、お金を払って虚偽申請や偽装就労をさせられていまして、そうした現実を突きつけられて、これは絶対排除していかけなければと思いました。もう1つは、こちらはいい話で、手塩にかけた技能実習生が国に帰るのを残念に思い、その国に海外進出した建設会社の社長さんに話を聞いたことです。こうしたダイバーシティ経営ができる企業さんを増やしていけば、日本の産業がもっと元気になるのではないかと考えています。
基本的にやりたくてやっているので、ないです。でも、違う意味で逃げたくなるのは、偽装のにおいがある時ですね。闇が深いところと繫がっている仕事なのでそこに落ちないように、いつもセンサーを働かせていないといけないというのはあります。一方で、依頼者の方にダメなものはダメと言って、きちんとした手続きをきちんと取りましょうというのもまた行政書士の役割だと考えています。
問題は多様化し、複雑化してきていて、何か1つが解決すればいいということではなくなっています。これは紛争性のある事案だから弁護士さんに、この労務の問題は社会保険労務士さんに、生活保護の話は社会福祉士さんにといった感じで、いろいろな方と提携しながら、依頼者の方を支えていかなければならない時代になっていると思いますね。ふだんから「ネットワークの一員」という心構えで、必要なところに繋げることを心がけています。
外国人に寄り添い続ける仕事なので、彼らの強さとか、おかれた現状とか、職場の課題とかニーズを感じやすいところはあります。外国人、そして彼らが働く現場のニーズはこうですよというのを国とか行政に伝える役目はもっとできるかなとも思っています。最近は外国人の定住化が進み、進学とか就職とか、離婚とか配偶者との死別といったライフイベントが起きた際に、そこで在留資格が危うくなってしまう人が多いように思います。国の多文化共生策って在留資格があることをベースにつくられていて、制度の狭間に落ちた人はどうしたらいいのかという問題があります。そこを考えるのが行政書士ですし、そうした問題をどうすべきか社会に問いかけていくことも必要ではないかと思っています。
これまでの日本社会は、働く外国人の方たちの将来とか生活をあんまり考えてこなかったように感じます。でもこのままだと日本の産業は萎んでしまう。例えば日本の介護は外国人介護士に頼っている部分が多いですが、円安もあって日本に来るメリットがなくなってきて、給料が高いドイツなどを選ぶ人が増えていると聞きます。このままだとまずいですよね。ここらへんで、日本社会はどうなっていきたいのかという未来に向けたコンセンサスを国、政治家主導で取っていかないといけないと思います。日本人だけで小さく回すのか、それとも、外国人ならではの視点や強みを活用して持続可能な社会をつくって元気になっていくのかです。どちらかを決めて進まないと、どっちもうまくいかなくなってしまうのではと思います。
本当にそう思います。今はまだ多文化共生というと、何かすごいことをやらなければならないとか、特別なことを考えなければならないと考える人が多いですが、一緒に何かをするだけでいいと思います。支援というよりは、コミュニティを共につくっていく感じです。みんなでサッカーをするとか、カラオケをするとかなんでもいいんです。みんなで一つのことをやるだけで、もっとお互いが近くなる。まじめなことばかりではなく、楽しいことを一緒にやる機会をつくっていけばいいのではないかと思いますし、若者だからこそ、それはできるのではないかと思いますね。
在留資格はライフライン。全ての外国人は在留資格がないと日本に居続けることはできず、そうなると今までそこで働き、暮らし、コミュニティを形成していたところにぽっかり穴が空いてしまう。在留資格を扱う行政書士は、GlobalとLocalを結びつけるお仕事なのだと理解しました。そのお仕事に40歳を過ぎてから飛び込み、今は最前線で活躍している笠間さんを見て、生きている限りキャリアは何度でも楽しめるのだと将来に希望を感じました。また、濃い人間関係に苦手意識を持って故郷を飛び出しながら、現在はまちづくりを通じて人間関係を紡いでいる姿も、人生は単調な一本道ではないと教えてくれているように感じました。