行動原則実践事例紹介 第5回 茨城県庁

2021年09月30日

本企画では、会員各位の外国人労働者受け入れ事例を紹介しています。

第5回でご紹介するのは、茨城県外国人材支援センターです。茨城県は会員として責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム(JP-MIRAI)に参加されています。

茨城県外国人材支援センターのウェブサイトは右記をご覧下さい。https://ifc.ibaraki.jp/

9月上旬に、JP-MIRAI事務局によりオンラインインタビューを実施しました。

<茨城県労働政策課 高野弘毅さん>

Q:外国人材支援センターを設立した経緯について教えてください。

茨城県外国人材支援センター(以下、「センター」)は平成31年4月に設立されました。

国において、新たな在留資格である「特定技能」が創設され、本県企業の人手不足の解消についても、外国人材等の活用が求められていますが、外国人雇用への理解不足や在留資格などの諸手続きの煩雑さ等から雇用に踏み出せない企業が存在するため、外国人雇用に関する制度の周知等を図り、外国人材活用を進めていくことが課題となっています。
外国人の方々に活躍いただくために就労支援や生活相談等一体的な支援を行うとともに、企業に対し外国人材の受入れに向けた支援全般を行い、就職マッチングや外国人材の県内定着を図ることで、継続的かつ安定的に人材・労働力を確保し、人手不足の解消、及び県内企業の発展を図るのが当センターの目的です。

外国人材の方が活躍するためには、企業において、適切な労働環境が整備されていることが前提になります。外国人材の受入れ経験が無い企業等に対し、茨城県外国人材支援センターのアドバイザーがサポートし適切な受入れ環境を整備した上で丁寧なマッチングを行うことで、外国人の方には「茨城に来てよかった」、企業の方には「外国人材を採用してよかった」と思ってもらえる好事例・モデルケースを発信しPRすることで、「選ばれる茨城」を目指します。

Q:外国人材支援センターの主な活動内容について教えてください。

① 企業支援の概要
外国人材と企業のマッチングは民間企業含む他の団体でも行われていますが、茨城県では、マッチング前に外国人材を雇用する前の環境を整備したり、就業した後の定着支援のサポートに特に力を入れています。
県内の多くの中小企業では、外国人材の受け入れ実績が無いことはもとより、職員の方が外国人の方々と接したことが無いため異文化に関する知見が無かったり、受入れにあたり必要な就業規則や労務管理などの環境整備に時間と費用がかかるなどの理由により、外国人材の採用まで踏み切れていないケースが見受けられます。特に外国人材を雇用する場合は、従事しようとする業務が、外国人本人が持つ学歴や職歴、経験などと一致していないと在留資格が下りない、という日本人の雇用には無いハードルがあります。

センターには、中小企業役員経験者や海外法人立ち上げ経験者、海外駐在経験者など企業支援スキルを持つ者が専門アドバイザーとして駐在しています。彼らが中心となり、県内企業に、事業内容や人材の充足状況、事業計画、外国人材に対する理解等をヒアリングし、従業員の方が働く現場を見て問題ないと確認した上で、外国人材の雇用を提案します。また、外国人材を雇うために必要な手続きや環境整備、在留資格制度を併せて伝え、外国人材の雇用は決して簡単ではないことも説明します。
在留資格や労務管理の専門的な知見が必要な場合には、定期的に無料開催している行政書士や社会保険労務士の相談会に参加いただき、就業規則改訂や雇用契約書作成、適切な労務管理などの支援を行います。
この他、外国人材を雇用してみたいという企業を開拓することも重要なミッションであることから、駐日在外公館や、JICAさんやJETROさんなどの海外に拠点を持つ公的機関などとも連携し、一流の講師陣を揃えセミナーを開催し、異文化理解や海外事情、外国人材の持つポテンシャル等を講演いただいています。
これらのサービスは、全て無料で行っておりますが、言い方を変えれば、外国人材支援センターは企業さんと対等な立場にあるということだと思います。外国人材の方々に活躍いただくために、我々センターは企業さんに整備いただきたい事項を繰り返しお伝えさせていただきますが、もしご協力いただけない場合には、支援をお断りさせていただくこともございます。

② 外国人労働者支援の概要
外国人の方は、就職活動に必要な情報を得るのが簡単ではなかったり、想定していた仕事と違っていたので離職したと、いうケースを耳にします。このため、センターでは県内企業の紹介や、県内視察ツアー、インターンシップの企画、県内企業との意見交換会などを開催し、企業と外国人材間のコミュニケーションを丁寧に行うことで、外国人の方に茨城県及び茨城県の企業を好きになってもらった上で就職いただき、ミスマッチの防止に努めています。
ある大学で留学生向けに就職ガイダンスを開催した際に、経済系の文系学生がIT企業でシステムエンジニアとして就職したいという方がいたのですが、在留資格があわないため就職できないことをお伝えしたことがあります。このようなケースは、非常によくあることですので、事例を交えながら、繰り返し、丁寧に説明していくことが重要です。

Q:ウェブサイトでは、ベトナム、インドネシア、モンゴル、ミャンマーを重点4か国に位置付けていらっしゃいますが、現時点でどちらの国籍の方と県内企業のマッチングが多いですか?

この4か国は、海外から外国人材を受け入れるにあたっての重点国であり、国内にいる外国人の方々であれば、特に国籍の別なく、県内企業とのマッチングに取り組んでいます。ちなみに、マッチング件数が多い国籍は、ベトナムになります。既にベトナムの方は日本国内にも沢山いらっしゃいますが、企業側にとってなじみがあったり、またベトナム人の留学生も多いことが理由だと思います。

Q:これまでにエントリー(もしくはマッチング)した外国人労働者は、どのような在留資格の方ですか?

本県がメインで支援対象としているのは、「技術・人文知識・国際業務」若しくは「特定技能」の在留資格で就職したい方になります。
ただ、昨年度は、コロナ禍の影響で実習が継続できず、雇止めになってしまった技能実習生に別の実習先を紹介するというサポートもしました。

Q:これまでにエントリー(もしくはマッチング)した企業・団体は、どのような業種・団体ですか?

県内でも企業数の多い製造業や、あとは人手不足の業種とされる建設業やIT業界が多くなっています。その他、数は多くありませんが、人材派遣業や小売業、官公庁などにおいてもマッチング実績があります。

Q:JP-MIRAIでは、会員企業・団体に、「責任ある外国人受け入れのための5つの行動原則」を実践して頂くよう呼び掛けています。下記の行動原則のうち、(1)~(4)について、特に気を付けていることや具体的な取り組みがあれば教えてください。

(1) 私たちは、外国人労働者の受入れに当たり、関係法令を遵守します。
(2) 私たちは、外国人労働者の人権を尊重し労働環境・生活環境を把握し、課題の解決に努めます。
(3)私たちは、働く場と生活の場の両方で、外国人労働者との相互理解を深め、信頼関係を醸成します。
(4)私たちは、日本及び国際社会の発展と安定に貢献するため、外国人労働者の能力開発に尽力します。
(5)私たちは、プラットフォームの取り組みを日本国内及び世界に発信していきます。

① 行動原則1‐法令遵守について

・相手国の法令を意識
本県が海外から人材を受け入れるに向けては、中央政府や地方政府、大学といった信頼できるカウンターパートと連携しています。連携を進めるにあたっては、覚書という公文書を取り交わしておりますが、当覚書の中で、相手国と日本、双方の法令に従って、適切なルートで、適切な人材を受け入れていくが明記されています。
仲介団体が労働者から徴収する手数料への対応については、例えばベトナムでは送り出し機関を経由しないと採用できない仕組みであるため、どうしても手数料が発生してしまいますが、もちろん、金額の妥当性や、何のために徴取する経費なのか等を確認し、他社の金額とも比較した上で、マッチングを行います。

・登録企業の法令遵守の確認方法
先にお伝えした通り、センターが企業支援するにあたり、外国人材の雇用を具体的に提案する前に、就業規則や雇用契約書、労務管理、同一労働同一賃金、居住環境などが適正であるか、確認いたします。もし、適切でない点が見つかれば、修正をお願いしますし、必要があれば当センターの行政書士や社会保険労務士の相談会に誘導します。
また、センターは既に働いている外国人労働者の方からも広く相談を受け付けており、もしセンターで対応できない問題であれば、出入国在留管理庁や労働基準監督署への相談をご案内しています。センターを利用して就職された方には、何かあれば相談するようご案内しています。

② 行動原則2-外国人労働者の人権尊重(労働環境・生活環境含む)について

・外国人労働者からのよくある相談事例と対応事例
センターが就職支援を行った外国人の方からではありませんが、「パスポートを取り上げられてしまった」などの深刻な相談が寄せられた際には東京出入国在留管理局水戸出張所を案内したり、残業代が支払われないといった相談には、労働基準監督所を紹介します。
企業からは、外国人労働者がごみの分別が理解できず困っている、音楽のボリュームが大きいなどの騒音、異文化理解の面のトラブルの相談が寄せられることもあります。こういった生活上のルールは、海外に暮らしていた方にとってはなじみがない場合が多いので、問題が発生してからではなく、事前に教える必要があります。特に、初めて外国人材の受入れを行う企業に対しては、外国人労働者を受け入れるということは、生活指導担当者を決めた上で、こういった生活上のルール順守も含めて、外国人の方へのサポート体制を構築する必要がある旨、ご案内しています。

③ 行動原則3-外国人労働者との相互理解について

・外国人労働者の言語サポート
せっかく茨城県を選んで働きに来てくれたので、少しでも日本語のコミュニケーション力を向上し、活躍いただきたいという思いで、本県は日本語学習支援e-ラーニングシステムを構築し、県内企業の担当者及び外国人従業員に無償で利用いただいています。このシステムでは、企業の管理者が、外国人従業員の学習状況を、例えば今月何回ログインし、総学習時間は何時間で、どれだけ学習が進捗したのか、などを確認することができる仕組みになっています。
ただ、課題もあって、このシステムを使って継続して勉強している方の数がアカウント発行総数に比べ少ないので、高いモチベーションをもって勉強を続けてもらえるようなモデルケースの創出に向け、今年度から伴走支援を始めました。

④ 行動原則4‐外国人労働者の能力開発について

・資格取得のサポート制度について
茨城県は、ベトナム・ロンアン省と外国人材の送出・受入れに関する協力覚書を締結しましたが、この覚書に基づき、県内介護施設で技能実習生を受け入れ、介護福祉士の資格取得までサポートし、茨城県及びベトナムの介護産業を支える介護人材を育成するプロジェクトをスタートさせました。ちなみに、外国人の方が介護福祉士の資格を取得すれば、「介護」という在留資格を得ることができ、更新すれば在留期間の制限がなく日本で就業を続けることが可能になります。

Q:外国人材支援センターはJP-MIRAI共同事務局のJICA(独立行政法人国際協力機構)と協働を行っていますが、センターとしてJICAに期待されていること、具体的に協働されていることにはどういったことがありますか?

2020年12月にJICAさんと茨城県の間で外国人材の送出し・受入れ分野での連携を目的とした覚書を締結いたしました。また、2021年2月からは、センターにJICAさんの国際協力推進員に駐在いただいています。JICAさんには、海外に多数の拠点をお持ちであり、また、途上国に対する長年の開発支援などを通して蓄積した海外の知見やコネクションをお貸しいただきたいと考えています。
これまでの共同の取組みで言うと、例えばJICAモンゴル日本人材開発センターさんと共催で、モンゴルと茨城県をwebでつなぎ、日本への就職に興味があるモンゴル在住のモンゴル人の方々に、茨城県の紹介や在留資格制度の説明をするとともに、茨城県で既に就業しているモンゴル人の方からのメッセージも配信しました。実際に、セミナー参加者から茨城県で就職したいので支援してほしい、という依頼もいただきました。
コロナ禍の渡航制限によりセミナーや就職面接会を対面で開催するのは困難ですが、オンライン環境をフル活用し、JICAさんの海外拠点と連携しながら、コロナ終息後にスムーズな受入れ体制を整えることができるよう取り組んでいきたいと考えています。

Q:JP-MIRAIに貢献できること、期待していることなどございましたら、教えてください。

JP-MIRAIさんには、会員さんにおける先進的な取り組みや優良事例を横展開してくださることを期待しています。他県を見ても、行政が外国人材の受け入れ促進に着手し始めたのはここ数年であり、どの自治体も手探りの状況かと思いますので、是非参考にさせていただきたいと考えております。

茨城県外国人材支援センターと協働されている、JICA筑波センター渡邉所長からも次のようなコメントをいただきました。

JICA筑波センターでは、2020年12月に茨城県と、外国人材の育成、送出し、受入れ等に関する連携強化に向けた覚書を締結し、以下の取り組みを推進しています。

・外国人材の茨城県内企業への受入れ促進

・外国人材の県内企業への受入れに必要な各種イベントの開催

・途上国の開発に資する県内企業の海外展開支援やグローバルな産業人材の育成

・外国人材と茨城県民との相互理解の促進及び茨城県における共生 等

開発途上国の開発を支援するJICAにとっては、外国人材受入れ支援という活動自体が新しい取り組みで、どのようなことが求められているのか、何をどのように支援できるのか、悩みながら手探りでいろいろな事例を積み上げています。

JICAの目的である「開発途上国の開発を支援する」というところに立ち返ると、来日された方が茨城県で活躍されるだけではなく、母国に戻った後に母国の発展のために活躍できることが大切であると考えています。そのため、今後は茨城県内企業の海外展開支援等も含めて、来県された外国人材の方が母国でも活動される循環型の支援を進めていければと考えています。

茨城県庁高野様、JICA筑波センター渡邉所長様とも、お忙しい中長い時間をこのJP-MIRAIの取材のために割いていただきました。この場を借りて感謝申し上げますと同時に、JP-MIRAIとしても皆様の意見をきちんと今後の活動に活かしていきたいと思います。

<取材執筆協力 株式会社クレアン 秋山映美・原田宏美>

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