行動原則実践事例紹介 第15回 佐賀県

2023年01月25日

本企画では、会員各位の外国人受入れに関連する事例を紹介しています。

第15回でご紹介するのは、佐賀県です。佐賀県では、平成26年度に“佐賀県国際戦略”を策定し、その中で内なる国際化(多文化共生の地域づくり)を重点分野と位置づけ、様々な施策を行っています。外国人労働者に関わる事業としては、外国人に関する総合相談窓口(多言語コールセンター含む)であるさが多文化共生センターの設置・運営、防災セミナー、日本語教育の体制づくり、やさしい日本語の普及・啓発、地域での交流機会の創出や企業と連携した受入環境づくり等を佐賀県国際交流協会と協力しながら実施してきました。

今回は佐賀県地域交流部国際課長の井崎 和也様にお話を伺いました。

地域交流部国際課長 井崎 和也様

Q.  佐賀県地域交流部国際課のプロフィールを教えて下さい。

平成27年頃から、技能実習生を中心とした外国人が佐賀県にも多く入ってこられるようになり、外国籍住民の数が飛躍的に増加しました。そのような状況の中で、地域住民と外国籍住民の方々とのコミュニケーションがうまく取れないといった問題が生じてきました。平成27年には、東京外国語大学の協力を得まして、外国籍住民及び地域住民を対象に調査を行いましたが、調査結果においても、同じような問題が顕在化していることが分かりました。
参考:佐賀県外国籍住民アンケート調査佐賀県における多文化共生に関する調査報告書

それに対応して、佐賀県ではこれまで行ってきた生活支援に加え、コミュニケーション支援として、地域での日本語教室の取り組みを活発化することで、地域日本語教室を核とした地域における顔の見える関係作りを目指してきました。
その後も外国人の数は増え続け、地域課題だけではなく、産業分野における課題も増えてきたため、対応を各企業や民間に任せきるのではなく、多文化共生の観点から、政策として取り組むべきだと問題提起が出されたのが、令和2年の初旬になります。

行政としてこの課題にどう向き合うのかについて半年間に渡り検討を重ね、同年の12月、国際戦略本部会議にて一つの方針を決定いたしました。
それは現在地域で取り組んでいるコミュニケーション支援を活用しながら、今後は産業分野において働く環境整備が必要であることから、受入れ企業側にも多文化共生を理解していただき、外国人が早期に馴染めるような、そのような働く環境の整備に我々も積極的に関わっていこうということです。

併せて、地域での顔の見える関係を築くための交流の機会作りにおいては、地域日本語教室の活動と合わせて積極的に行っていき、その双方を上手く実行することによって、外国人の方が地域に融合していくというような形で、地域づくりに取り組もうと動き出しました。
また、令和3年4月には、多文化共生については一つの係として独立させ、集中的に取り組んでいこうと、職員を増員して業務を進めています。

Q. 受入企業、外国人労働者に向けて行っている具体的な活動を教えてください

多文化共生のマインドを広めていくという取り組みに関しては、受入企業に対しては、私たちが企業へ赴いたり、逆に依頼を受けて多文化共生に関するセミナーを開催したり、双方向からの形で進めています。一方で外国人の方が入ってこられたら、生活オリエンテーションだけでなく、受入れ側の社員等へのやさしい日本語の講座もそこで一緒に行うなどしています。

また、地域でのコミュニケーション円滑化のためのツールとして、やさしい日本語の教材動画を作っているのですが、そういったものを社員教育のために使っていただいている企業もあります。
参考:やさしい日本語動画(入門編・基礎編・実践編)

受入れ側と入ってくる側、双方に対して我々が積極的に関わっていくことで、問題が起こらないようマインド醸成のための、言わば営業活動のようなことを中心にやっています。

もちろん雇用管理セミナーのようなところで我々が登壇して働きかけるというのもありますが、そういった集合研修では人権問題というのは知っていて当然という前提であり、持つべき人に本当にマインドが醸成されたかがわからないことから、そこからもう一段階踏み込んで、企業に赴いたり、企業の中におられる外国人に直接オリエンテーションなどを行うことによって、その場で終わりではなく、当事者たちが次の行動に自分たちで繋げていくというところまでフォローしています。

Q. 外国人に関する総合相談窓口(多言語コールセンター含む)について教えてください。

電話相談窓口の多言語コールセンターでの対応は21言語で行っております。また、対面での対応ということになると、佐賀県はベトナム国籍の方が非常に多いため、令和元年の7月から国際交流員としてベトナム人を雇用し、対応にあたっております。

ベトナム人国際交流員のファン グエン アン トゥイットさん(写真左)

Q. 活動を続けていて、受入れ企業側が変わってきたと感じられる点はございますか。

私達が関わっている企業の中には、変わられていっているところも少なからずありますが、外国人を雇用されている企業は県内に1,000近くありますので、その全てがどうかという話になると、まだまだなのかもしれません。

ただ、私たちは地域全体を丸ごと作っていこうということを目指して活動しているので、企業内での働く環境整備だけではなくて、外国人の方が企業の近くの地域の方々と交流して、地域と密着して生活することができていれば、何か私たちが目指している本来の形に近づいているのではないかと思っています。

Q. 今後はどのような展開をお考えでしょうか。

受入れ企業に対して、コンサルティングのような形で、伴走支援という仕組みを作っていくことを考えてます。今の営業活動の延長線上にはなりますが、やはり企業側のマインドの醸成やそれと合わせた働く環境整備を企業側が自ら整えていけるよう、私たちが寄り添って支援していくような仕組みを作れないかと考えています。

そういった取り組みをこれまでも行ってこられた優良企業がありますので、そういった事例をお伝えしながら、自分たちの力で、自分たちの取り組みに変えていこうとする企業を、私たちがお手伝いすることを考えています。

Q. JP-MIRAIおよびJP-MIRAI会員への期待をお聞かせください。

JP-MIRAはプラットフォーム組織なので、難しいのかもしれませんが、優良事例を指し示すだけでは、なかなかマインドの醸成まではいかないと思います。佐賀県内でも働く環境整備等を行っている企業がいらっしゃいますので、例えば、そういった企業の経営者の方とネットワークを構築していただくとか、また、やはり人権問題なので、雇用する受入れ側の経営者の方や人事担当の方へ実現可能なレベルで理解を促進する必要があると思います。

他には、当地域で何かワークショップのようなイベントを開催していただいてもよいかもしれません。
地域での日本語教室やセミナーなど「交流」といったような言葉を使うと、非常にハードルが高く聞こえてしまい、大きなイベント実施を想像しますが、私たちが普段行っているのは、外国人の方と地域住民の方とのお喋り会のようなものなのです。特定技能で入ってこられる方とか、留学生もそうですが、ある一定程度の片言でも日本語が使えたり、やさしい日本語で会話ができるということをベースにして考えると、地域の方々が、一旦その外国人と日本語である程度コミュニケーションができるようになると、ハードルが圧倒的に下がるのです。
何か地域のためにテーマのある交流機会を作らなければいけない、ということでなくて、実際に対面でお話をする機会を作ってハードルを下げる、普通に喋れる状況を作るということが意外と大事なのかと思います。

<インタビューを終えて>
井崎様には、日々の業務で大変お忙しい中、取材に応じていただきました。取材中何度もお話されていた「現場レベルでのマインドの醸成」を常に意識して取り組みをされている姿勢に胸を打たれました。また、佐賀県では、ウクライナ難民者支援においても、身寄りのない方に対し、自治体やNPO職員が身元引受人になって対応している状況なども伺い、改めて佐賀県の多文化共生に対する取り組みの本気度を伺うことが出来ました。この場をお借りして感謝申し上げます。JP-MIRAIとしても、引き続き多くの自治体の皆様のモデルとなるような活動を目指してまいります。

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