活動レポート

JP-MIRAI中小企業向け動画教材ローンチイベント ~外国人労働者の適正な受け入れと共生社会の実現を目指して~ 
活動レポート

日本国内、特に地方での深刻な人手不足を背景に、年間2万社以上の企業が新たに外国人労働者の雇用を始めています。このような企業では外国人労働者が抱える背景事情(言葉や文化の壁、来日前手数料による借金等)への理解不足と受け入れ体制の不備から労災や人権侵害、失踪、地域住民との軋轢の発生リスクが高まっています。そのため、雇用企業と外国人労働者、そして地域住民が理解を深め、よりよい地域社会を目指し協力できる関係づくりが急務となっています。 

9月2日に開催した本教材ローンチイベントでは、この課題に関心を寄せる83名が集い、JP-MIRAIがトヨタ財団の助成を得て制作を進める、外国人労働者の背景事情、労災・人権侵害の防止、共に働き暮らすヒントを「分かりやすく」学べる教材の活用と普及について活発な意見交換を行いました。結果、想定済みの「企業のサプライチェーン内」、「業界団体の加盟企業内」、「自治体から地域の企業へ」などに加え、下記のような斬新なアイデアが集まりました。 

  • あらゆる規模の企業の「ビジネスと人権」社員研修での活用(E-learning) 
  • 企業や団体の集合研修でのグループディスカッションの題材としての活用
  • 社会保険労務士による顧客企業への紹介
  • 監理団体や監査法人による事業所訪問時の啓蒙資料としての利用
  • 自治体を通じた地域の企業での活用と職場環境改善による定着率の向上と社会経済へのインパクトに関する学術研究との組み合わせ  
  • 消費者、学生が「ビジネスと人権」を学ぶ教材としての活用 

このように、企業規模に関わらず、また企業外でも広く活用できるよう「動画教材:外国人雇用と人権(仮)」等への名称変更を検討中です。 「教材をぜひ活用してみたい」とのご期待に応えるため、本イベントの結果を活かし、質の高い、使いやすい教材作りと普及を進めてまいります。 

アーカイブ動画視聴につきましては、会場参加または資料報告希望の事前お申込みをいただいた皆様、および有料会員向けLMS内にてご案内しております。 

【開催概要】 
日時:2025年9月2日(火)13:30-16:00 
会場:東京ウィメンズプラザホール 

■開会挨拶

JP-MIRAI 代表理事 矢吹 公敏 

多様なステークホルダーのプラットフォームとして、外国人労働者の日本の社会への定着と適正な受け入れに取り組んできたJP-MIRAIは本年11月に設立5周年を迎える。本教材も多様な有識者との議論を重ね作り上げた成果である。本日はより良い教材作りと普及のため多様なアイデアが得られることを期待していると述べた。  

来賓あいさつ

全国社会保険労務士会連合会 会長 若林 正清 氏 

昨年11月にJP-MIRAIと締結した連携覚書は、改正社労士法で明確化された「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与すること」という社労士の使命に正に合致する。2021年よりBHR(ビジネスと人権)推進社労士を養成し外国人労働者の適正な労働環境確立に取り組んできたが、本動画教材が多くの雇用主によって外国人労働者の人権保護と「選ばれる日本」の実現に大いに役立つことを期待すると述べた。 

第1部:教材案内と講演

1. 中小企業向け動画教材~現場で使われ、行動に結びつく教材の普及を目指して~ 

JP-MIRAI プログラムオフィサー 佐藤 

定期的な教材作成コアメンバー(有識者チーム)会議やワークショップから得た意見を参考に、学習者にとって「使いやすい」「わかりやすい」「行動につなげやすい」そして「違和感がない」よう丁寧に言葉や見せ方を選びながら制作を進めている。杉田弁護士による「ビジネスと人権講座」と事例中心の短いアニメーション動画を組み合わせ、標準修了証コース(5時間)とマネージャー向けバッジコース(1時間)を会員向け学習サイトで順次提供する。サプライチェーン、業界団体、自治体、社労士、中小企業団体、地銀信金などのチャネルを通じた普及を考えているが、この後のディスカッションの結果が大変楽しみと述べた。

2. 講演「繊維産業におけるビジネスと人権の取組み~外国人労働者問題を中心に~」 

日本繊維産業連盟 
副会長兼事務総長 富吉 賢一 氏 

繊維業界は技能実習制度の違反事案多発を受け、2018年に官民協議会を設立。「事業継続のために違反やむなし」から「法令遵守は当然」への意識改革を進めた。2021年には人権ガイドラインを策定。中小企業向けにチェックリストによる現場改善を図った。特定技能制度では繊維業のみを対象に国際人権基準適合が義務化され監査制度も導入されたが、国内消費者の「ビジネスと人権」意識が低く、企業の人権対応が売上に直結しないため、業界全体へのガイドラインの普及が遅れている。育成就労制度では国際基準適合は求められるが監査は不要となる方向と聞いており、本動画教材を活用した企業の人権意識向上と自主的な取り組み促進を期待したいと述べた。 

3. 講演「長崎県の取組について」 

長崎県産業労働部未来人材課
企画監 高見 誠 氏 

都市部への外国人労働者の流出を抑制したいが、県下の企業の多くは規模が小さく、賃金面での優位性に抗うことは容易ではない。地域なりの魅力を最大限活かした取組が重要。定期的に日本や地域の文化体験や各国料理教室等、近隣住民との交流を進め、外国人労働者の定着率を向上させた企業がいる。県でも異文化理解促進セミナーや企業向け受入れ環境改善補助金制度等を実施している。本動画教材の利用の広がりにより、さらに多くの企業で定着率が改善することへの期待を述べた。 

第2部:パネルディスカッション「外国人を雇用し地域と共生していく企業に求められること」

パネリスト 

  • 株式会社セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 / 
    サステナビリティ推進室 シニアオフィサー 和瀬田 純子氏 
  • 日本繊維産業連盟 副会長兼事務総長 富吉 賢一氏 
  • 中小企業家同友会全国協議会 政策局長 斉藤 一隆氏 
  • 長崎県産業労働部未来人材課 企画監 高見 誠氏 
  • 全国社会保険労務士会連合会 理事 小野 佳彦氏 
  • 弁護士法人Global HR Strategy 代表弁護士 杉田 昌平氏 

司会進行  

  • JP-MIRAI 理事 宍戸 健一 

【問1】外国人労働者の適正な受け入れと定着について、今、課題に感じていることは? 

杉田氏(GHRS):毎日100件程企業から相談を受けるが、外国人雇用でつまずく原因は、制度の複雑性と透明性の低さだ。育成就労制度への移行により、雇用企業が把握する必要性が高まった外国人労働者の来日経路や来日前手数料負担といった基本的な事項をわかりやすく伝える教材が望まれている 

和瀬田氏(セブン&アイ): セブンイレブンでの商品開発や食品工場運営に関わる中、多様な文化・背景を持つ従業員と働くには「日本流のままでは通じない」と実感した。今、多くの日本人社員が現場で外国人労働者とどう上手くコミュニケーションをとりマネージメントしていくか苦労している。 

富吉氏(繊産連):JASTI監査制度等の運用の中で聞いた企業の声を総合すると、JASTI監査は認証・監査経験があれば難しくないが、未経験者にとってはハードルが非常に高く、何カ月も監査に必要な必要書類が揃わない。企業の大小関係なく引っかかるポイントは共通しており、基礎知識の学習支援が必要だ。 

斉藤氏(中同協):現在会員が経営する企業の16%が外国人を雇用し、外国人なしには成り立たないところも増えている。社内や近隣住民とのトラブルの発生を想定せず「安い労働力」を期待して雇用を開始し、社内や近隣住民とのトラブルが発生していた企業の経営者が当会に入会し、人間尊重の経営」を学び実践することで事態が改善された事例もある。人間尊重の経営」を実践する経営者を増やしていきたい。 

高見氏(長崎県): 県内企業によれば、人材流出の理由はまず「より高い賃金」を求めて転職することだが、外国人の場合は来日前の借金を抱えている分その傾向が高まると認識している。企業は日本人従業員の待遇との均衡も考慮しながら限られた資金で対処する必要があり、外国人定着のため具体的に「何をすればいいかわからない」という悩みを抱えている。 

小野氏(全国社労士会):雇用企業の間には「給料は最低賃金でよい」など技能実習制度導入当初の感覚がまだ残っている。企業に求められる人権デューデリジェンス基準をパスすることは外国人雇用経験があれば困難ではないが、監査の時だけではなく、日々の業務の中で人権に配慮し、コンプライアンスを満たし、問題の発生を予防できる企業になっていくことが重要である 

【問2】優良企業はもちろん、平均点や課題を抱える企業に響く教材の要件は? 

高見氏(長崎県):「本当にわかりやすい、初めてでも安心」という印象を与える工夫が鍵。実際に使った企業からの 「役に立った」「わかりやすかった」「社内で議論のきっかけになった」との感想、「こんな取り組みを始めた」「外国人労働者との関係が改善した」のような実例を平均的な企業は知りたがっている。また、業務の隙間でも視聴でき、短時間で要点がつかめる構成や、写真・図などの視覚的工夫もあるとよい。 

斉藤氏(中同協): 「人間尊重の経営」の推進でも身近な先輩経営者から「実践で会社が良くなった」という話を聞くと、入会間もない経営者もすぐ取り組む。 

小野氏(全国社労士会):専門職の存在意義は「翻訳者たるべき」:わかりにくい政策や法律を翻訳して相手に伝えることだ。この教材がそのサポートになると良い。また、JP-MIRAIの認知度を上げ、独自の認定を出していくことで励む企業が出てくるだろう。中小企業に教材を届けるコンベア役は全国の社労士や中同協のメンバー等が担えるだろう。 

【問3】今後の教材の活用や普及はどうしていくと良いか? 

和瀬田氏(セブン&アイ): 社内Eラーニングのようにで「倍速で見て知識のチェックをする」だけでは身につかない。この教材は「こうすべき」だけではなく、「どういう経緯で外国から働きに来るのか」「彼らはどういう気持ちなのか」という内容で学習者を入り込ませるところが良い。また、工場の課題を知るため、我々小売業のバイヤー側もこの教材を活用することを提案したい。また、消費者に「様々な人生を抱え日本に来ている人が製品を作っている」ことを発信し理解を促す教材としても使える。 

富吉氏(繊産連): 繊維業界の中小企業は大幅な減少が続いた結果、逆に結束が強まった。グッドプラクティスを蓄積し共有すれば、「あの規模のあの会社ができるならうちも」という意識が広がる。一方、大手のプライム上場企業でもコーポレートガバナンスコードで求められる人権対応に関して「何をやっていいかわからない」状態で抽象的な報告に終始している例も多い。今後は非財務情報の開示義務が強化されるため、何かしら取組み実績を示したい上場企業からすぐに使える動画教材のニーズが高まることが考えられる。 

杉田氏(GHRS)自身の教材制作の基本姿勢として、技能実習、特定技能などの制度、来日までの手数料や経緯、借金を抱える経済事情、なぜ転職を希望するのかなど外国人労働者の置かれている状況、企業が守るべき適正な労働条件、法の遵守など人権配慮やコンプライアンスについて、よく知らずに外国人を雇用し、問題が起こった時に初めて困惑するケースを減らしたいという思いがある。普及については動画を視聴した経営者、人事担当者、現場管理者はぜひ社内で感想をシェアしてほしい。そこから「今度チームの外国人と話してみよう」「私も見てみよう」という循環が生まれ、職場全体で外国人労働者について理解を深めていくきっかけになる。 

【問4】よりよい教材制作のために、学習者から新しい事例や率直な感想、改善意見などのフィードバックを得る方法は? 

高見氏(長崎県): 例えば各コースの理解度テストに教材の改善点を聞く質問を追加したり、定期的に会員に教材に関する質問を送付したりするとよい。教材に使える事例の提供にはインセンティブを付与することも有効。各都道府県庁に動画の良さを知ってもらい、関係団体を通じて地元企業への普及とフィードバック収集を行ってもらう仕組みも考えられる。 

斉藤氏(中同協): 同友会での実践報告後に必ずグループ討論を行う方式を紹介したい。「自分はこう思ったけど相手の人はこう思った」という多面的な学びは重要で効果がある。本動画教材も複数人で視聴後に感想を言い合うワークショップ形式での使い方を企業に示してはどうか。 

小野氏(全国社労士会): 全国社労士会主催のイベントの場や各都道府県の社労士会をアクセスポイントにした教材情報の発信をしてはどうか。例えば県の社労士会と自治体とのタイアップも効果がありそうだ。各地の社労士は良い取り組みをしているクライアント企業に対しその価値を気づかせ、それを他の企業に紹介する役割を担うことができる。 

会場からのコメント

教材の活用・普及について: 

  • 外国人雇用関係者の「ビジネスと人権」への理解不足が深刻だと日々感じている。上手く受入れ成功していると自認する企業もそれが正解なのか、問題が残っていないか見直しをしていくことが必要。また、平均点未満の企業には、監理団体に先に学んでもらい、定期監査時に一緒に動画を見てもらい啓蒙するなど地道な活動が有効(コアメンバー池邊氏/監理団体・雇用企業支援)。 
  • 外国人労働者の適正な雇用には経営者だけでなく従業員の思いも聞き、取り組みに巻き込むことが重要。教材を社員研修に活用してもらい「ビジネスと人権」の理念を広く双方に届けることを念頭に広報をするとよい(コアメンバー万城目氏/大学教授)。 
  • 中同協の斉藤氏が提案した集合研修で本教材の視聴とディスカッションを組み合わせは自分も有効だと考える。現在全国にいる646人のBHR社労士に今後ファシリテーターとなってディスカッションの素材として活用していくことを提案したい(コアメンバー薦田氏/BHR社労士)。 

共生社会の実現について: 

  • 日本は海外経験(自分が外国人・よそものになった体験)のある人とない人で国際的な感覚に大きなギャップがある特殊な社会だと感じている。外国人との共生を進めるには、そんな日本の特性に気づいたうえで取組む必要がある(参加者/業界団体)。 
  • 共生には雇用会社側と外国人労働者側とのコミュニケーション改善に加えて、外国人労働者を「育て」スキルアップしていく対象として捉えることも重要である(コアメンバー氏家氏/国連関係団体)。 

まとめ 

モデレーター宍戸が以下の2点を提示しディスカッションを締めくくった。 
1. 本教材を単体として学習するだけではなく、社員教育の一部(e-learningの課題、対面集合研修でのグループディスカッションの素材)としての活用や定期監査などのルーティン業務との組み合わせなどの工夫で、効果的に活用していくことができる。 
2. 共生社会の実現には、より多くのステークホルダーが外国人労働者の背景事情を正しく理解し、労働者としてだけでなく住民として外国人を受け入れるため、共同して取り組むことが必要。そのためのツールとなるよう本教材を充実・発展させていくことが求められる。 

■閉会あいさつ

JP-MIRAI 理事
毛受 敏浩

今回の動画教材はJP-MIRAIが日本社会に発信する重要な事業であり、積極的な活用と普及を求めたい。また、大学の講義や外国人雇用企業での研修での活用の促進も提案したい。外国人受け入れに関し議論が活発化している昨今の現状を踏まえ、多様な視点からの建設的な議論を通じて、日本人と外国人のウィンウィン関係となる共生社会の構築に向け、今回の動画が重要な役割を果たすことを期待すると述べた。 

【関連リンク】 中小企業向け動画教材 – JP-MIRAI 

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