2023年2月17日(金)に外国人労働者アンケート報告会をオンライン開催いたしましたので、その様子をご報告いたします。
今回は、JP-MIRAIと共同でアンケート調査を実施していただきました同志社大学大学院ビジネス研究科飯塚まり教授(同大学ウェルビーイング研究センター長)よりご説明いただきました。
●冒頭に、設問がセンシティブな内容であればあるほど、アンケート結果が真実をどこまで反映しているのか慎重に判断する必要があり、一つの調査結果だけではなく、多面的に調査を重ねることで現実を示せる、とお考えをお話いただきました。
●次に、今回の調査の目的、方法、項目について、以下のようにご説明がありました。
今回のアンケート調査は以下3点に関する設問で構成されている。
1.外国人労働者の来日前および来日中の労働・生活環境についての実態
2.外国人労働者の、日本や日本人に対する印象や感情
3.外国人労働者の、社会変化の影響(2021年はコロナ禍による就労・就学、生活の変化・困難が生じたか。)
調査方法は9言語(やさしい日本語、英語、中国語、ベトナム語、タガログ語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語、ミャンマー語)によるオンラインアンケート形式で実施した。JP-MIRAI会員にも協力いただき、2022年2月7日~20日の2週間の調査期間で、最終的に932件の回答があった。
調査項目は、さまざまな困りごとについてヒアリングをしたうえで整えられた。さらに、調査項目の一つでは、国連も利用する国際的な指標の一つである「人生満足尺度」というウェルビーイングに関する項目を測っており、自分の人生を生きているという感覚を持っているのかということを聞いている。
・仕事に関して、契約通りの仕事をしているのか、時間外労働に対して正当な報酬を受けているか、いやがらせがないか、尊厳をもって扱われているか、結婚や妊娠によって不当な扱いをされていないか、給与は自分の口座に支払われているか等、踏み込んだ質問もしている。
・生活に関して、住居や各種手続きに関することに加えて、親として困っていることなど家族に関する精神的な面なども聞いている。
・来日前後での意識や考えの違いを聞いている。
●アンケート概要に続き、調査結果について、以下のとおり振り返りをしていただきました。
・今回はベトナム人技能実習生からの回答が非常に多く、全体の5割弱を占める。
・収入に関して、年収100~199万円の層が全体の約3割で最も多く、年収200万円以下の方が全体の約5割を占める。自国の家族へ送金をしている方が7割弱で、送金額は10万円以下が7割以上となった。
・「人生満足尺度」に関する項目では、設問として「大体において、私の人生は理想に近い」という状態にどれ程当てはまるかを尋ねたところ、7段階(1「全くそうではない」から7「とてもそうだ」)で上から3番目(5)が約3割で最も多かった。その他の項目においても概ね満足している回答が多く、全体的にポジティブに捉えられている様子が伺えた。他方で、「人生をもう一度やりなおせたとしても、変えたいことはほとんどない」という状態にどれ程当てはまるかを尋ねる設問に対しては、「変えたい」と考えている方が多かった。
・仕事に関する項目では、回答者中、働いている人が7割以上で、業種も幅広く、従業員規模も大きな会社が多い中で、「契約どおりの仕事を行っている」ことを尋ねる設問に対して、約1割の方が「すこしちがう」または「ちがう」と回答した。また、「時間外労働に対して正当な対価が支払われているか」という点についても同様の傾向。ただし、これらの結果に関しては、外国人に限らず、日本人を対象にしても同様の回答傾向になるのではないかとも考えられる。
・「会社の人からの身体的・精神的嫌がらせはあるか」という設問に対して、3割近くが嫌がらせをされたと回答している。「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)の問題」があるかを尋ねると、「問題ない」という回答は5割程度で、「ときどきある」又は「ある」と回答した方が3割程度いた。これらの設問については、回答結果を素直に受け止めるというよりも、本来は回答しにくい設問に対して、正直に回答した方がそれだけいたと解釈するのが適当と思う。
・「給与の振込口座の銀行の通帳は自分が保管している」という設問について、「自分が保管していない」と回答した方が約5%、「給与支払時に、強制的に貯金をさせられている」という設問について、「はい」が約15%、「パスポートや在留カードは自分で保管している」に設問について、「いいえ」が約2%ある結果となった。
・「仕事や働く場所で困ったときの相談相手」について尋ねると、「同じ国の友達」、「家族」、「会社の人」の順に多く、逆に、「弁護士」や「教会・お寺」などは低い結果となった。ただし、この項目は、人による「友人」の概念の違いもあり、選択肢に迷って回答をした可能性もあるため、読み解くには注意が必要。
・「COVID-19の影響」に関する設問に対して、働く時間、収入共に「少し減った」又は「とても減った」と回答する方が多く、中には、「仕事を辞めさせられた」、「同じ会社の別の場所で働くことになった」、「在留資格が変更になった」という回答も一定数みられた。
・生活に関する項目では、「住居や生活ルール、行政手続き等での困り事」について、概ね5割程度の方が「問題ない」と回答したが、どの設問でも3割程度の方が何かしらの問題を抱えていると回答しており、その内容も、日常生活をする上でのかなり細かな内容が多い印象を受けた。
・子どもに関する設問に対して、回答者の4割程度が問題を抱えていると回答しており、その理由も、「子どもが母国語を忘れてしまう」や、「PTAのことが分からない」等、アイデンティティにも関わる、より細かくて複合的問題が相互に関連している様子がみてとれた。
・病院に関する設問に対して、今回の回答者は若年層が多く、頻繁に病院を利用する層ではないはずが、それでも困っているという回答が多く、特に「どの病院に行けばよいのかわからない」といった回答が見られた。病院の窓口で困ることは想定していたが、病院を選択する段階でも問題があるのは意外な結果だった。
・災害に関する設問に対して、「警報が分からない(多言語でなかった)」、「お金や物資をもらう方法が分からなかった」等の回答があった。
・「日本人の友達やよく話す人の有無」に関する設問に対して、「(日本人の友達が)いる」又は「すこしいる」と答えた方が約6割で、「あまりいない」と感じている方が2割強、「いない」が2割弱と、約4割の方が孤立感を感じている。「日常における自分の居場所があるか」という設問に対しても、回答者の2割強が「あまりない」又は「ない」と回答をしている。自分の居場所がないときに、インターネットを使って気を紛らわせるということがあるが、契約の問題などでインターネットが利用出来ない方も少数だが存在している。
・更に深刻な「外出や移動の制限」に関する設問に対しては、回答者の6割が「ない」、2割が「ほとんどない」、と回答していますが、残る2割程度の方は「制限がある」と回答している。「外国人であることを理由にした差別・偏見」に関する設問に対しては、半分以上が何かしら「ある」と回答した。
・「来日するために仲介者に支払った金額」に関する設問では、「手数料を支払っていない」と回答したのは5割弱の方で、半数以上の方が何らかの仲介手数料を支払っており、中にはその金額が200万円を超えるという回答もあった。金額の内訳については、よく分からないという回答が多かったが、概ね日本語の勉強料、渡航費用、ビザや在留資格取得費用といった3つに分類されている。
・日本に来てよかった点について、「安全である」という回答が多いことが特徴的。国内の治安の良さを当たり前と私たち日本人は認識しているが、外国人の方には非常に重要視されているということが分かった。また、「今後の日本滞在希望期間」について尋ねたところ、日本での中長期的な滞在を希望する回答が多かった。
●報告会の最後に、飯塚教授より、アンケート調査を終えて感じた点を以下のとおりお話いただきました。
「私自身が専門とする人生満足尺度に関連して、外国人の方が日本で暮らす上での細かな問題は何か関係があるのか、という分析を今後していきたいと思っています。
今回調査結果の中で、「安全でよかった」、「また日本に来たい」、「人生にもそれなりに満足している」というポジティブな声が挙がっていたので、特に人権の侵害にかかわるような問題にしっかりと向き合えば、日本は、外国人の方からより良い印象で捉えて頂けるのではないかと期待しています。」
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。アンケート調査報告資料に関しましては、準備が出来ましたら、改めて公開いたします。