行動原則実践事例紹介 第2回 井上泰弘さん

2021年03月18日

本企画では、毎月1回会員各位の外国人労働者受け入れ事例を取材させて頂き、皆様に共有しています。
第2回に登場するのは、個人会員の井上泰弘様です。井上さんは個人会員としてJP-MIRAIに加入されていますが、本業では大阪で大阪王将/やよい軒8店舗を展開する(株)ヒロフードサービスの代表取締役でもあり、また早くから外国人労働者の採用に取り組まれてきた中で(有)新たな外国人材も設立され、更に2年前の入管法改正に向けた働きかけに取り組む中で、現在食品産業特定技能協議会委員および(一社)大阪外食産業協会 外国人雇用委員会委員長の役職も務められている方です。
井上さんの事業については下記をご覧下さい。

http://www.hirofoodservice.com/about/
http://www.hirofoodservice.com/group/

<ヒロフードサービスで働く様々な国の皆さん>

そんな井上さんにJP-MIRAIの事務局がオンラインでお話を伺いました。

<井上泰弘さん>

2021年3月8日(月)11:00-12:30 インタビュー実施

Q. 井上さんが外国人労働者を採用するきっかけ、そしてその後の活動について教えてください

A. 私は外食産業に37年関わっていますが、慢性的な人材不足に悩んでいました。2013年に4年に一度の「食の博覧会・大阪」があり、副本部長をさせて頂く機会を頂きました。ちょうど自社の成長の機会を模索していた時期で、この事は自社の今後を考えるきっかけとなりました。日本人スタッフがたくさん辞めてしまった時期と重なったのですが、この時、初めて外国人採用を始めました。最初は中国人を採用し、その後ベトナム人採用を勧められて現地で面接し、採用することになったのですが、その人を迎えにいくときに「日本に来る前にお金を払ってないか」と聞いたら「それは言えません」と返答が返ってきました。これから一緒に働くので、秘密は無しにしましょう!と言ったところ、「100数十万円払った」と話してくれたのです。驚きました。その後、「日本に来るには、いろんなブローカールートがある」事を知ったのです。

一体どういう事なのか?真実を知りたく思い、ベトナム人を紹介してくれた行政書士に聞いても「知らない」と逃げられ、現地の送り出し機関に会いに行ったのですがやはり「知らない」と言われ、結局、日本でいろんな関係者に会って、そこで様々なややこしい話を、より詳細に知るようになっていきました。

その後、より詳細な現実を知る為、ベトナム・ミャンマー・インドネシア・カンボジア等多くのアセアンの国の学校を訪問し、現地で日本語学校に泊めてもらいながら日本語を少し教え、日本に来る方々の現実を目の当たりにしてきました。外国人労働者の採用に当たってはいろんなお金の流れ、裏の事情が存在します。受入企業の社長さんはほとんど知らないのが現実です。このまま放置すると入管法違反で社長が逮捕?と言うリスクもあります。そうならない為にも、入管法を理解し、外食産業全体で話し合わなければならない。その想いを結実させる時期と2年前の入管法改正のタイミングが重なり、活動を続けました。

Q. 入管法改正において、そしてその後の井上さんの活動を教えて頂けますか?

A. まず、2年前の入管法改正時に創設された特定技能14業種に「外食業」を入れてもらう活動に関与出来た事です。実は入管法改正の4年前から「外食業にも技能実習を!」という活動を(一社)大阪外食産業協会で行っていましたが、ある時、農水省から「特定技能」という制度の話が出てきたので、特定技能に絞った活動に変更しました。

私たちが活動を始めた時、「外食業」はまだ特定技能14業種に入っていませんでしたが、以前から行政には足を運んでいた事と、様々な方々のお力もあり、外食業も「特定技能」という資格を得られる事が出来ました。その後、農水省と連絡交換し「食品産業特定技能協議会」の委員にも入りました。技能実習制度のようなしがらみのない特定技能は、慢性的に人材不足を抱える外食業界にとっては、大きな一歩と感じました。そして、外食業で正しく雇用してもらう為に創ったのが(一社)大阪外食産業協会業界独自の「外国人材適正雇用推進認定制度」です。

「外国人材適正雇用推進認定制度(Fair Marks)」とは、健全な外国人雇用を促進することを目的とし、外国人が安心して働ける場か否かを認証する「グローバル事業者認証」、就労を希望するがんばる外国人材の実力を見える化する「グローバル人材認証」、さらに外国人材の紹介や、日本語研修・生活支援等を健全に 実施する事業者であることを認定する「外国人材雇用関連事業者認定」の3つの制度から成り立っています。

入管法改正によって、外食は特定技能だけでなく、技術・人文知識・国際業務(いわゆる技人国)の在留資格なども含めて外国人採用に関して、適正雇用を検討できるようになりました。それによって雇用も変わってくるのです。外国人労働者の「定着」というのが、ともすると話題になりますが、多くの外国人は日本に出稼ぎに来ています。日本企業の多くは、人手不足だけに目を向け、本人の人生と残された家族のことを考えていないのではないでしょうか。企業は外国人の家族に責任を持てるのか―そこを見ないで「定着」にばかり努力してもいけないと思っています。

また、特定技能1号が出来た事で、外食業における外国人の適正雇用の実例を創る必要性を感じ、弊社自身で取組みを行っています。例えば、弊社では「メンター制度」を創り、新しく来た外国人スタッフには、先輩が「母国語」で伝えることを行っています。伝えるという事に関しては、「やさしい日本語」を使い、微妙なニュアンスは、母国語で伝える事が大事だと思います。弊社では、「日本に永く働いてほしい・・」では無く、本人の希望を最大限考慮し、3~5年を目安に採用しています。

そして、注意しておきたいことは、在留資格の知識です。現在、外食業はコロナ禍で大変ですが、外食業はそもそも人材不足が慢性的な産業で、一昨年の入管法改正前迄は、多くの外国人雇用をする企業様がおられました。

しかし、入管申請時の理由書と実際の仕事内容が違うような申請が多くあったようです。「単純労働とされていた外食業」では、正社員として働ける在留資格が、基本的には同業種(母国で中華歴であれば中華等)で10年以上の経験がある人、又は身分・地位(永住・その配偶者や定住・日本人配偶者等)による在留しか認められていなかったのです。特によく誤解されているのが技術・人文知識・国際業務と言う通称「技人国」という在留資格です。特定技能が出来た事で入管法を正しく理解し、現在の雇用されている外国人スタッフの在留資格を注意してみておくことも大切です。

外食産業は、外国人スタッフの大学の「学部」も日本語能力検定の「N1」や「N2」も、関係がないのです。この業界は、業界の実情にフィットした採用基準が必要です。それが上に説明した「人材認証」なのです。

企業も「人材認証」されている人を採用すると安心です。また、入管も同様と思います。ぜひこれは外食業界だけでなく他の産業でも、導入してもらえると良いと思っています。

Q. 井上様の「責任ある外国人労働者受入れ」に対する思い、それを一言で表現するとどういったものになりますか?

A. 「知らないことを知っているふりをしないでほしい」ということです!

海外から来る人たちは、「ワンクリックで箱に入ってやってくる」「お金さえ払えば簡単に手に入る」というモノではないことを企業としてもう1度考えてほしいです。お国にはお国の文化もあるし考え方も違う。人を受け入れるということを日本の経営者はもっと考えてほしいです。

Q. 責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)は、会員企業・団体に、「責任ある外国人受け入れのための5つの行動原則」を実践して頂くよう呼び掛けています(行動原則)。井上さんの外国人労働者に対する取り組みは、上記5つの行動原則を実践していると言えますか。実践しているのはどう言った取り組みか、会員への模範事例として、具体的にご教示頂ければと思います。

A. 2.(私たちは、外国人労働者の人権を尊重し労働環境・生活環境を把握し、課題の解決に努めます)と 3.(私たちは、働く場と生活の場の両方で、外国人労働者との相互理解を深め、信頼関係を醸成します)が大事なのではないかと思います。つまり、多文化共生を意識しながら雇用することが大事で、「人手」として雇用するのではないのです。

私の会社にもミャンマー人が6人いるのですが、この前その人に会ったらいきなり泣かれてしまいました。家族と連絡が取れない…と。それは他人事ではないのです。海外は、身近になってきました。未だに、外国人を「安く」使おうなどというのはおかしいのです。まずは、外国人労働者の皆さんが、何を求めて日本に来ているのか?理解してほしいと思います。

Q. 責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)は、受け入れ企業・団体・監理団体・弁護士・学会の先生方など幅広い外国人労働者受入れに関わる方々を会員に迎えており、今後右のような活動を予定しています(「JP-MIRAIとは」に掲載の「主な活動内容」)。井上さんが今までの活動を実践していく中で、気づいたこと、課題と感じたこと、そして上記5つのJP-MIRAIの活動の中で今後特にJP-MIRAIが活動すべきと思われることとして、具体的にどのようなことがありますか?

A. 戦ってもらいたいです。正しいと思うことに対して、「話が通らないから、あまり知らないから辞めておこう、意見する方が気を悪くされるから辞めておこう・・・」ではなく、プラットフォームの中で真剣に意見をぶつけ合って、未来(外国人が適正雇用される)に対して、戦って頂きたいです。

続いて、井上さんの紹介を頂き、ヒロフードサービスで4年近く働くベトナム人のNGUYEN THANH TRUC(グエン タン トルック)さんにもオンラインで取材を行わせて頂きました。

<NGUYEN THANH TRUCさん>

2021年3月17日(水)14:00-15:00 インタビュー実施

<インタビューにはヒロフードサービスの武山様およびインターンシップ中の外国人の皆様にも同席頂きました>

Q. なぜ日本で働きたいと思ったのですか?

A. 12年前に技能実習生として日本に来ました。当時は工場で車のドアを組み立てていました。3年後にベトナムに帰ったのですが、その間に日本のことが好きになったのでまた日本で働きたいなと思ったのです。

Q. 「ヒロフードサービス」で働いて、期待どおりでしたか?期待を上回る経験はありましたか?

A. 最初は外食のことがわからず大変だったのですが、努力しているうちに会社の皆さんが徐々に私のことを理解して応援してくれるようになりました。今は、会社で外国人初のマネージャーとして重い責任を負っています。これは、期待以上のことです。

Q. あなたは、外国人労働者を受け入れる日本の企業・団体にどのようなことを期待しますか?

A. 外国人と日本人との間の差別をなくしてほしいと思っています。

Q. それは具体的にはどういうことですか?

A. 以前技能実習生として働いていたとき、油にアレルギーを感じ、体調が悪化しました。そのことを会社に訴えたのですが会社は私が病院で受診することを認めてくれませんでした。当時はそれを差別とは感じなかったのですが今ではそれは差別であったと感じています。

Q. あなたは、会社以外の外国人労働者との交流はありますか?

A. 技能実習生時代の同僚で今日本で働いている人とはコンタクトを取っています。皆さんそれぞれ頑張って仕事をしていますが、一人暮らしなので孤独を感じることもあるようです。

Q. JP-MIRAIに外国人労働者の視点から何を期待しますか?

A. 外国人と日本人との差別をなくすために、イベントやSNS発信など様々な活動を行ってほしいです。

井上さん、TRUCさんとも、お忙しい中長い時間をこのJP-MIRAIの取材のために割いて頂きました。この場を借りて感謝申し上げますと同時に、JP-MIRAIとしても皆様の意見をきちんと今後の活動に活かしていきたいと思います。

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