本企画では、会員各位の外国人受入れ事例を紹介しています。
第13回でご紹介するのは、帝人フロンティア株式会社です。同社は企業会員としてJP-MIRAIに参加されている帝人株式会社のグループ会社で、2021年度上半期活動報告会での発表で会員相互の投票にて優秀賞にも選ばれています。
帝人フロンティア株式会社のウェブサイトはこちらをご覧下さい。
11月中旬に、JP-MIRAI事務局によりオンラインインタビューを実施しました。
Q. 帝人フロンティア株式会社のプロフィールを教えてください。
帝人フロンティア株式会社(以下帝人フロンティア)は2012年にNI帝人商事(株)が帝人ファイバー(株)のアパレル事業を統合して設立され、株式は帝人(株)が100%保有しています。一見新しい会社ですがその歴史は古く、創業は1869年の竹村半兵衛商店大阪支店開業まで遡ります。
参考:会社沿革
帝人フロンティアの企業理念は「私たちは新たな価値を創造し、美しい環境と豊かな未来に貢献します」、コーポレートメッセージは「暮らしは、せんいで進化する」を掲げており、繊維によって環境問題など様々な社会問題を解決していくことを目指しています。
帝人フロンティアは「メーカー」と「商社」という2つの異なるDNAが融合したハイブリッドカンパニーですが、商社としてのコンバーティング力と、繊維の素材開発から製品生産までの技術力を融合させ、衣料繊維、産業資材など幅広い市場で、新しいビジネスを生み出していくことを強みにしています。
Q. 帝人フロンティア株式会社のJP-MIRAI入会の経緯について教えてください。
前共同事務局のASSCさんからJP-MIRAIの紹介があり、入会しました。
Q:JP-MIRAIでは、会員企業・団体に、「責任ある外国人受入れのための5つの行動原則」を実践して頂くよう呼び掛けています。本行動原則に関連する取り組みを教えてください。
行動原則1「私たちは、外国人労働者の受入れに当たり、関係法令を遵守します。」および行動原則2「私たちは、外国人労働者の人権を尊重し労働環境・生活環境を把握し、課題の解決に努めます。」の実践をしています。昨年12月6日の「JP-MIRAI公開フォーラム」では、この行動原則実践の取り組みについて発表させて頂きました。
昨年12月6日の「JP-MIRAI公開フォーラム」における帝人フロンティアの発表内容
(5:15から塚本さんの発表内容がご覧いただけます。)
具体的には、国内外の帝人フロンティア製品を製造している拠点や工場において労働者に対する法令違反や人権侵害が行われていないかを調査し、問題があれば改善していくCSR(Corporate Social Responsibility)アンケート及び監査を行っています。
CSRアンケートは、2021年は当社の調達先国内354社、海外154社から回答を受領しました。2022年は上半期に海外330社強にアンケートを発信し、現状での回答は100社ほどです。このCSRアンケートにおける調査項目は103に上ります。
今年は労働時間を記録していないというところが数社ありました。また、避難訓練、健康診断を行っていないところも数社ありました。いずれに対しても改善要望を出しています。
国内の調達先に対するCSRアンケートは現在準備中で、12月中に発信し、来年1月にとりまとめ、来年3月までにフォロー完了予定です。
CSR監査については、国内では2021年は3社に実施、2022年は今のところ3社に実施予定です。例年10社を候補に挙げていますが、コロナの影響もあり、ここ数年は実施先が少なくなっています。
海外についてはオンラインにて監査実施しています。2021年は13社実施、2022年は1社実施しました。毎年10数社を候補に挙げていますが、海外はオンラインでの監査実施のため、コロナの影響を受ける国内に比べると監査を受けてもらいやすいと言えます。中国は現地で直接訪問し実地監査を行っておりますが、こちらはコロナによる行動制限もあり、なかなか実地調査ができていないというのが現状です。
監査で問題点が見つかった場合は、改善依頼計画書を作成し提出してもらいます。よく見られる問題点としては、緊急連絡先として工場担当者の連絡先はあっても110番や119番の連絡方法がないなど、緊急時の連絡先の整備が不十分な場合が多いです。
Q: CSRアンケートや監査を行っていく中での課題はありますか?
CSRアンケートについては、回収率がなかなか上がらないという課題があります。最近の回収率は30%強くらいです。営業を通じてのプッシュなども行っての現在の回収率なので、原因について社内で議論中です。まさにこれから取り組んでいこうとしているところです。
CSR監査については、なかなか実地監査を受けてもらえないという課題があります。取引先が煩雑な仕事を避けたいので、コロナを理由に引き延ばしているようにも見えます。営業を通じてコツコツ連絡を取りながら、時には品質監査の方が調達先にも受けてもらいやすいので、品質の監査と合同でやるなどの工夫をしています。
Q: 次に、技能実習生のサポートを行う監理団体との取引について伺います。塚本さんの昨年12月6日の発表によると、帝人フロンティアは現在信頼のおける監理団体に一元化して技能実習生のサポートを依頼しているとのことですが、その経緯と効果について教えて頂けないでしょうか。
現在技能実習生を採用しているのは帝人フロンティア本体ではなく、当社のグループ会社です。
現状、技能実習生を採用しているのはそのうちの2社になります。技能実習生をめぐっては、20年前の採用当初はいろいろな問題がありました。特に大きかったのが、せっかく採用した技能実習生が失踪してしまうという問題です。この問題を解決していくうえで課題だとわかってきたのが、ほとんどの実習生はお金を稼ぐために来日しており、その過程で現地で高額な手数料を送り出し機関に払っており、そのために借金し、その後来日してから賃金が思ったより低く、来日中は借金返済に精いっぱいで、さらに悪質なブローカーがより高額な賃金を提示することで失踪が生じ、そこで受入れ企業が実習生のパスポートを没収する、という悪循環だったのです。
この悪循環解決のためには、根本的な問題である、技能実習生が来日前に払っている高額な手数料の問題を解決することでした。この課題解決のために監理団体と話し合いを進めていく中で、私たちの課題認識と理念に共鳴してくれた監理団体を発見しました。彼らは、私たちが課題解決のために実現しなければいけないと考えていた、技能実習生の来日前に支払う手数料をゼロにするという理念(ゼロフィー)にも共感してくれたので、2019年度からこの監理団体に技能実習生のサポートを一元化することにしました。そしてここから、ゼロフィーの取り組みを始めたのです。
Q: 御社のゼロフィーの取り組みについて教えて頂けますか?
最初はミャンマーの実習生につき法律で定められた手数料2800ドルを、受入企業が本人の来日後に本人に返還するという対応を取っていました。現在は、受入企業が直接送り出し機関に対して手数料を全額支払っています。
受入企業としても、人手不足の中で技能実習生の獲得には真剣であり、その中でやむを得ない費用として受入れてもらっているのです。
従って現在、技能実習生の手数料負担は一切生じていません。そして、失踪問題もゼロフィー採用後一切起こっていないのです。
Q. ゼロフィーの取り組みの今後の課題について教えてください。
当社が実践している今のゼロフィーの対応は、本来あるべき姿だと思っていますが、現在達成できているのは自社グループだけです。今後、自社グループ以外のサプライヤーにも広げていきたいですし、この流れを当社と取引のないところにも広げていくことが大事だと思っています。
Q. その他、外国人技能実習生の責任ある受入れに向けた取り組みを教えてください
CSR調達を他社に先駆けて取り組んできた中で、CSR調達基準書を現在作成し、調達先に配布しています。毎年配布する部数は4500部です。ここに至るまで、基準書の体系化、送付、さらに取引先にこの基準について理解してもらうまで、様々な経緯がありました。昨年基準書の一部改訂を行い、環境に配慮して電子版の発行を行い、多言語化も行っています。当社主催のセミナー等で調達先にCSR調達基準を訴えかけています。
Q. JP-MIRAIへの期待を教えてください。
経産省もガイドラインを出してはいますが、民間企業としても「どうすればいいのか」がピンと来ない面があります。民間企業としてこうしていくべきだ、という指標を、JP-MIRAIが先頭となって作っていくことを期待します。
<インタビューを終えて>
塚本さんには、お忙しい中このJP-MIRAIの取材のために長い時間を割いていただきました。技能実習生の待遇をめぐっては様々な報道がありますが、ここまではっきりと技能実習生の手数料問題の解決を通じた技能実習生の待遇改善に取り組んでいる日本の企業があることを、もっと多くの皆さんに知ってもらいたいと思いました。この場を借りて感謝申し上げますと同時に、JP-MIRAIとしても当ご意見を今後の活動にしっかりと活かしていきたいと思います。