JP-MIRAI Portal

外国人のための総合サイト

JP-MIRAI Portal

外国人のための総合サイト

活動レポート

2025/4/8

RBA/ILO/JP-MIRAI共催シンポジウム「移住労働者のリクルートの適正化について考える」 
活動レポート

JP-MIRAIは、国際労働機関(ILO)、Responsible Business Alliance(RBA)との共催で「来日する移住労働者のリクルートの適正化について考える」と題したシンポジウムを開催しました。第一部では ILOの専門家やRBAの 労働問題担当局長などこの分野をリードする方々から講演いただき、第二部(パネルディスカッション)では、送出国、企業、日本政府、国内経済団体、労働組合などのステークホルダーをお招きし、意見交換を行いました。 

参加者からは、「官民が一体となって議論を交わすこのような場は非常に有意義だった」との声が寄せられました。また、今後もステークホルダー同士が対話を重ねる機会の継続を望むご意見も多くいただいております。JP-MIRAIは、イベントを主催した機関との連携を深めながら、外国人労働者の訪日前の手数料問題を含む人権問題についての取り組みを継続していく予定です。 


開催概要 

  • 日時:2025年4月8日(火)14:00-17:20 
  • 会場:ベルサール八重洲(2階 会議室D+E)+Zoom配信 
  • 参加者数:会場76名 / オンライン159名 
  • アーカイブ動画:YouTube(日本語:第1部第2部/英語:第1部第2部)※公開期限:2025年5月末頃まで 

開会あいさつ 

RBA 最高責任者 ロバート・レデラー 氏 

倫理的なリクルートを推進してきた第一人者として、技能実習制度に代わる育成就労制度の導入を歓迎。制度を成功へと導くためには、政策立案者・送出機関・民間セクターの連携が重要であるとし、本シンポジウムでの対話への期待が述べられた。 


第1部:講演 

1. ILO講演「公正なリクルートへのILOのアプローチ」 

ILOアジア太平洋地域事務所 TRIANGLEプログラム・チーフテクニカルアドバイザー アナ・イングブロム氏 

まず、「公正なリクルート(人材募集・斡旋)」はすべての労働者にとって、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現するための第一歩であると述べ、その理由として、雇用方針と労働市場のニーズとの整合性を保ちつつ労働者保護が担保できることを説明した。続いて、労働者に過剰な手数料負担を課す事例とともに、ILOの『公正な人材募集・斡旋に関する一般原則及び実務指針』、および『募集・斡旋手数料及び関連費用の定義』を紹介し、これらの原則の中心にあるのは、労働者はリクルートに関していかなる手数料や関連費用も請求されない、ということである、と留意した。労働者による手数料と関連費用負担ゼロの実現に向け、特に重要な点として、送出国側と受入国側の双方が、(移住)労働者を不当なリクルートからより効果的に保護する法規制を定め、それらが効果的に施行されるようにすることを強調した。 

発表資料はこちら 

2. 法務省出入国在留管理庁講演「育成就労制度について」

法務省出入国在留管理庁 政策課補佐官 前多 環氏 

育成就労制度における大きな取り組みの一つとして、「送出しの適正化に向けた方策」について言及。移住労働者が送出機関に支払う費用に上限を設定し、また、費用の情報公開を図ると述べた。さらに、キックバックなどの不正行為を禁止し、二国間取決め(MOC)に基づき送出国政府による指導・調査体制を整備することで、悪質な送出機関の排除を目指す。「外国人材から選ばれる国」になるためにも、関係団体との連携を深め、丁寧に制度設計を進めていく考えを示した。 

発表資料はこちら 

3. RBA講演「移住労働者のリクルートの最適化について考える」

RBA 労働問題担当局長 カルロス・ブスケ氏 

 2018年から2023年にかけて「RRP(責任ある採用プログラム)1.0」を実施した経験から、ゼロフィーモデルの推進には、企業にとっての経済的インセンティブと政府の関与が不可欠であると言及。この課題を解決するために、現在は「RRP2.0」の立ち上げに向けた準備が進められており、2026年からの本格始動に向け取り組んでいる。RRP2.0では、受入れ企業・サプライヤーにも着目した認証制度を導入し、サプライチェーン全体で倫理的リクルートを実現していく方針だと示した。 

発表資料はこちら 

4. NGO講演「ベトナム・カンボジア・ミャンマーからの移住労働者が負担する高額なリクルート費用」 

メコンマイグレーションネットワーク 地域コーディネーター 針間 礼子氏 

MMNは、2001年よりメコン地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)の移住労働者の権利保護を目的に活動。日本への移住労働には好印象を持つ人が多い一方、過剰な斡旋手数料を払うため、多くの移住労働者が多額の借金を抱えて渡航せざるを得ない問題について指摘、プロセスの改善とリクルート費用の引き下げの取り組みの重要性に言及した。特にミャンマーにおいては、軍事クーデター以降、法的上限(2,800ドル)の制度の実効性が低下しており、雇用主と送出機関・労働者の直接的な連携が重要だと提言した。 

発表資料はこちら 

5. JP-MIRAI講演「公正で倫理的なリクルート(FERI)」

JP-MIRAI 理事 宍戸 健一 

「公正で倫理的なリクルート(FERI)」は、ベトナムを皮切りに、インドネシアやネパールでもスタート予定であると現状が報告された。また、ゼロフィーに取り組む企業のメリットとして、①優秀な人材を引き寄せ、結果的に企業にとっても利益となる可能性が高いこと、②費用の一部を企業が負担することで定着率が向上したという声が挙がっている点を述べた。企業は「やらされる取り組み」ではなく、「人を大切にする経営」としてゼロフィーに取り組み、移住労働者とともに持続可能な成長を目指して欲しいと強調した。 

発表資料はこちら(日本語English)  


第2部:パネルディスカッション 

「倫理的なリクルートに向けた課題と展望」

第一部の講義を踏まえ、産業界、送出機関、政府、労働組合など多様な立場から、倫理的リクルートの実現に向けた見解が示された。  

【パネリスト】
欧州企業 Sky サステナビリティ・コンプライアンスマネージャー ベニー・チャン 氏 
ベトナム労働者派遣協会(VAMAS)副会長 グエン・ゴック・クイン 氏
ベトナム送出機関 HAI PHONG MTV 会長 グエン・スアン・トゥェン 氏
法務省出入国在留管理庁 政策課補佐官 前多 環 氏
日本経済団体連合会 産業政策本部 上席主幹 脇坂 大介 氏
日本労働組合総連合会 法制局局長 漆原 肇 氏     

【司会進行】  
JP-MIRAI 理事 宍戸 健一 

■国際社会からの要求と国際基準の段階的導入 

まず、雇用者の立場から、経団連の脇坂氏は、技能実習制度を廃止し、移住労働者の人権が着実に守られる、実効性のある制度に移行する、という原点に立ち返り、育成就労は「日本は人権を守る国になった」と国際社会から評価される国際労働基準に合致した制度とする必要性を強調した。一方で企業による「ゼロフィー」など国際基準の導入を進めるためには、いきなりゼロ(雇用主全負担)ではなく段階的な実施も可能で、悪質業者が排除され優良業者が生き残れるメリハリのある制度設計が求められると指摘した。 

また、Sky社のチャン氏は、日本企業も直面しつつある、欧米市場からのサプライチェーン全体での人権侵害防止徹底要求について、チャン氏の拠点である香港の国内法上での義務ではないが、欧米で事業展開するSky英国本社からの要求として、「現代奴隷法」等に則り、サプライヤーに移住労働者の人権保護を遵守してもらう必要があり、そこで、人権研修や相談窓口設置などを通じ、サプライヤーの移住労働者への対応改善を促がしている、との自社の取組みを紹介した。 

送出国側の課題と雇用者側の理解と行動の必要性

VAMASのクイン氏は、ILO181号条約未批准のベトナムでは、新しい国内法でも送出機関は、労働者から手数料を徴収できるが、1年契約当たり1か月分の給与額、3年以上の長期契約でも3か月分の給与相当額という上限が定められ、同時に、(例えば日本の場合、受入側が労働者一人当たり送出側に年間少なくとも6万円から12万円を支払っているように) 受入側に帰国時のチケット代、リクルートや出発前訓練に係った費用の全額または一部を負担することを義務づけ、送出機関はその分は労働者からの手数料から徴収してはならないことになっており、国内法上、労働者の負担を減らしゼロフィーに向かう方向性が反映されてきている、と説明した。まだ多くの雇用主(特にベトナム人労働者の多くが働く中小企業)や送出機関がこれに倣っていないという現状に対し、VAMASはILOの支援を受けながら約200の加盟送出機関向けの国際基準の行動規範(CoC)を定め、ゼロフィーを推進していると報告した。また、中小企業が多い日本側受入れ企業に全額負担を求めていくのは難しく、両国の政府による法規制、国際機関や市民団体、リクルートプロセス関係者全ての関与のもと、VJ-FERIのような事業を後押しして好事例を広げていくこと、さらに労働者への教育も重要だと述べた。 

一方、Hai Phongのトゥエン氏は、ゼロフィーでの求人は、かつてはRBA加盟企業に代表されるグローバルサプライチェーン内の企業からが多かったが、コロナ禍後の人材獲得競争の中、特に介護分野のゼロフィーでの求人が増加傾向にあると報告した。その理由については、雇用者負担は労働者一人あたり出国時一回払いの場合30~40万円増えるが、良い人材が集まり、失踪や犯罪に巻き込まれる率が低いというメリットに対し、雇用者の満足度が高まったことがある、と述べた。ただし、リクルート仲介業者が労働者から手数料を密かに徴収するケースもあり、真のゼロ負担実現のためには、VJ-FERIでも規定されているように、第3者を介さない送出機関による直接リクルートが必須である、と指摘した。 

■政府の立場から育成就労の制度設計状況について

入管庁の前多氏は、育成就労制度の創設に当たっては外国人労働者の人権保護が最も重要であると考えていること、同制度の2027年4月から6月の間の施行に向け、2025年3月の基本方針策定後、関係省庁との分野別運用方針の作成に向けた作業を進めつつ、パブリックコメントを含む様々な意見を聞きながら、2025年夏頃の公布を目指し関係省令を制定する予定であること、また、送出国ごとに作成する二国間取決めでは「手数料の透明化・公表」を重視している、と語った。労働者が負担する手数料の上限設定については、政府としても労働者が手数料を負担してもいいと考えているわけではなく、ゼロフィーは目指すべき目標ではあると考えているが、雇用者の規模間は大小さまざまであるなか、日本全体が直面している人手不足の現実に応えるため、また、日本が移住労働者が負担なく気持ちよく働きに来てもらえる選ばれる国になるため、有識者会議の意見や国民の声も聞きながら、実効性のあり、かつ、「日本の受入れ制度が変わった」と国際的に評価されるような制度設計を考えている、と述べた。 

■労働者側視点から人権侵害防止に必要なことについて

連合の漆原氏は、移住労働者の人権保護や定着には、「ゼロフィー」による来日前の手数料・借金問題の解決だけではなく、来日後の職場でのハラスメントや労災の防止対策、日本語学習の支援や日本人と同等の賃金の支払いなど受入れ環境の整備の重要性も指摘した。また、新たな育成就労制度などにより規制が強化されたとしても、転籍を禁止したり、失踪時の賠償金を労働者に科したりする裏契約が行われる余地がない制度設計の必要性を念押しした。 

■まとめ

最後に、6名のパネリストの発言を踏まえ、モデレーターのJP-MIRAIの宍戸がまとめとして、 

「倫理的なリクルート」の導入は移住労働者の人権保護のために不可欠であるとともに、より良い人材の確保と定着率の向上、生産性向上などの具体的なメリットがある、という認識が共有できたこと、 

いきなりの国際基準の制度化は難しいかもしれないが、それに向かって一歩ずつ進むような、悪質業者が淘汰され、優良な業者が残る抜け道のない政府による制度設計と、先述の「メリット」に対する中小企業を含む雇用主への理解促進を実践と検証、データ蓄積と共に進めることが課題であること、 

そのために、我々リクルートプロセスに関わる全ステークホルダーが互いに協力し、複雑な実態を解き明かし、より多くの関係者が倫理的なリクルートに参加し、移住労働者の人権が守られ、選ばれる日本でありつづけられるよう、社会に働きかけていくことが求められる、 

と述べ、パネル討議を終了した。 


閉会あいさつ 

JP-MIRAI 代表理事 矢吹 公敏 

主催3団体を代表し、多様な専門分野の登壇者の協力と多数の参加者の支えによりこの意義あるシンポジウムが実現できたことへの謝意とともに、移住労働者なしではもはや社会が維持できない人口減少・人手不足が現実味を帯びる中、討論で整理された「倫理的リクルート」導入への課題やメリットの段階的な解決に向けて、全ての関係者が協力連携して着実に段階を踏みつつ進んでいくことへの期待を述べ、シンポジウムを締めくくった。