本シリーズの<長崎・佐賀編>では、「住居」「日本語学習」「社内コミュニケーション」「人材育成」の4つの視点から、企業の実践事例をもとに、外国人労働者が地域社会の一員として安心して暮らし、働き続けられる環境づくりのヒントを探ります。今回は、「日本語学習」に焦点を当てます。
日本語がつなぐ、働く力と支える力~企業と外国人労働者が共に歩む「ことば」の支援
外国人労働者を受け入れる企業にとって、最も多く聞かれる不安のひとつが「日本語」です。仕事をしながら言葉を学び続けるのは、誰にとっても簡単なことではありません。企業としても「何か支援したい」という思いはあっても、何から始めればよいのか分からず、日本語教師の確保も難しいのが現状です。
しかし、取材を通して見えてきたのは、「できることから少しずつ」取り組んでいる企業の姿でした。言葉の壁を越えるための工夫と努力――その現場をご紹介します。
来日前から始まるサポート
ー 株式会社亮(建設 / 高度人材)
外国人労働者が安心して来日できるよう、同社では来日前から毎日、SNSやメールで連絡を取り合い、日本での生活に対する不安や疑問に寄り添いました。
職場の作業風景を撮影し、日本語のナレーション付き動画を送信。視聴後に内容を日本語でまとめてもらうことで、実践的なリスニング力と表現力の向上を支援しています。

できる人が、できる範囲で、継続できる支援
ー 社会福祉法人めぐみ厚生センター (介護 / 特定技能)
グループ内にいる日本語が教えられるスタッフが、オンラインで日本語を指導。また、地域の日本語教室への送迎も必要に応じて実施し、帰りは公共交通機関を使ってもらうなど、自立支援にも繋げています。
写真:「オンラインでの日本語勉強も勤務時間内にさせてもらえるのがありがたい」と話す、めぐみ園勤務のヴェラさん

現場で使えることばを一緒に学ぶ
ー 株式会社植松建設(建設 / 高度人材)
建設現場における専門用語や道具・資材の名前などについて、写真と日本語の説明でまとめた用語集を、日本人スタッフと外国人労働者が一緒に作成しました。学びの過程自体がコミュニケーションの場となり、信頼関係づくりにも役立っています。

他部署プレゼンが生んだ相互理解
ー 株式会社オリエントアイエヌジー(測量 / 高度人材)、株式会社ディーソルNSP(IT / 高度人材)
語学力だけでなく、自信も育てるため、外国人労働者が他部署に向けて日本語でプレゼンテーションを行う機会を設けました。自己紹介やスキルの紹介を通じて、社内に新しい交流が生まれ、思わぬ技術の共有や対等な関係構築にもつながっています。

「お互い意思疎通が円滑にとれるように 、まずは日本語を頑張ってもらいたいので、モスクに行く金曜日を、できるだけ勉強の日として確保するようにしています。」と話す、オリエントアイエヌジー中島社長

ディーソルNSP勤務のタンヴィルさんはIT経験者。開発面での提案等も積極的に行い、社内に新しい風を吹かせています。
取材を終えて ~言葉を学ぶことは、関係を築くこと
私たちは、日本語を家庭や日常会話の中で自然に覚えてきました。しかし、外国語を学ぶとなると、「聞く・話す・読む・書く」のどれもが大きな壁となります。日本語を学ぶ外国人労働者にとっても同じこと。さらに、日本独特のビジネスマナーや方言など、教科書では学びにくい文化的な背景もあります。そんな時、企業の支援があることで、本人の努力が無駄にならず、むしろ意欲や自信を後押しする力になります。また、日本語を「一緒に使って学ぶ」場をつくることで、スタッフ同士のコミュニケーションも深まり、現場の雰囲気もより良くなっていく――そんな相乗効果を、取材の中で何度も感じました。
「言葉の支援」は、特別なことをしなくても、始められます。翻訳ツールの活用や、「やさしい日本語」を使った会話でも十分に効果があります。できることから、無理のない支援を。言葉が通じることで、心も通い合う――そんな関係を職場からつくっていけたらと願っています。
(JICA九州 国際協力推進員 <外国人材受入環境整備・多文化共生推進> 堀 美幸)