【実施報告】自治体・国際交流協会等勉強会 第3回「美作市の事例から考える外国人材受入れ政策」【2023年1月18日】

2023年02月08日

2023年1月18日(水)、第3回自治体・国際交流協会等勉強会(オンライン)を開催し、自治体、国際交流協会、教育機関、企業など、JP-MIRAI会員内外から、93名の皆様に参加をいただきました。

勉強会冒頭、JICA国内事業部・部長の福田より主催者挨拶を行いました。外国人材受入れにおいて多様なステークホルダーが関与する中、地域社会の一員として外国人材を受入れるにあたり、自治体が担い、果たしてきた責任と役割の重要性を改めて確認した上で、本勉強会が有益な学びの機会となるとともに、会を通じて、自治体をはじめとする重要なステークホルダー間の知見共有や、横のつながり・ネットワークが強化され、それぞれの地域での取組が更に促進することを願っている旨、発言しました。JICAは政府開発援助(ODA)の実施機関として、開発途上国への技術援助や資金援助を主な業務とする中、なぜ日本国内の社会課題に取り組むのか、と問われることも多いと言います。相互依存の世界と言われて久しい中、国際社会の問題、開発途上国の開発課題、日本国内の社会課題は根底では連動しており、それぞれを切り離して考え、別々に対応する必要はないのではという問題意識を持っている、とコメントしました。JICAがこれまで培ってきた国際協力の知識と経験をもとに、国内の地域課題解決に対し、地域パートナーと協働していきたと考え、取組を強化しているところである、と発言。JICAが日本国内での取組を進めるにあたり、先進的な事例が全国に様々ある中で、開発政策、開発事業のアプローチという観点でJICAが学ばせていただくことが大変多い状況であることに触れつつ、各地域のステークホルダーである皆さまとJICAとの協業、共創を一層進めることができれば幸いである、とコメントしました。

基調講演「コロナ禍で見えてきた在留外国人の課題―日本は選ばれる国になりえるか?」
公益財団法人日本国際交流センター(JCIE) 執行理事 毛受敏浩様

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冒頭、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)発生前後の日本人と在留外国人数、外国人労働者数の増減推移を示しながら、コロナ禍でも外国人労働者数が減少しなかった背景には、製造業、サービス業、医療・福祉など、日本のあらゆる産業の重要な担い手として多くの外国人労働者が日本で暮らし・働いている現状があるのではないか、とのお話がありました。そういった中、JCIEの休眠預金事業を通じて見えてきた現状として、コロナ以前から存在した生活・就労環境などにおける外国人労働者の脆弱性が、コロナによってより顕在化したという見方が正しいのではないか、という視点を共有されました。

2022年6月に日本政府が出した「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」では、ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援への言及がなされるなど、定住を想定した事業が加速度的に開始している中、「選ばれる国」になるためには、将来を見越して、どれだけ、どの分野で活躍してもらうかをゼロから検討していく必要があり、また、「社会の重要な担い手であるという認識」をしていく必要がある、と発言がありました。外国人(労働者)は、支援が必要な人たち、という側面もあるものの、日本人が持たない多様な価値観、経験、スキルを持つ重要な人材であり、そのような「隠れた潜在力」をどのように発見し、日本の社会に役に立ててもらえるかを考えることは大事である、という点に触れ、それらを実現するために自治体に期待されることとして、以下5点を挙げました:

    1. 人口政策と結び付けた外国人受入れビジョンの策定、実行
    2. 外国人活躍を促す仕組みづくり―「日本の社会の中で自分を認めてもらいたい」「社会とつながりたい」という外国人のニーズがある中で、そういった人々の活躍を促す仕組みづくりが肝要
    3. 地域住民の意識改革
    4. 地域の多様な主体が関わるプラットフォームの構築―地域の在留外国人がどのような役割を担いうるのか、そして、地域の将来がどうあるべきか、について議論をしていく
    5. 現場(自治体)の声を政府へ明確に届けていくことで、政府の明確な意思表示を促していく

事例共有「美作市における外国人材受入れの取組について」
美作市 市長 萩原誠司様

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美作市における外国人材受入れの取組の位置付けについて、冒頭お話がありました。同市は消滅可能性自治体と言われており、「消滅可能性というレッテルをはがすため」に行っている様々な取組の中に、外国人の受入れ政策が存在するとのこと。

受入れ政策を検討する中で、経済界から「日本と親和性のあるベトナムが継続的に産業界に参入できるようパイプ整備をお願いしたい」という趣旨の要望があり、その要望に応えるべく当初は姉妹都市交流を検討したものの、望ましい候補に出会うことができず、最終的には、ダナン大学との友好協定締結に結実。これが同市におけるベトナムからの人材受入れの始まりでした。大学との友好協定を選択した主な理由として、人材供給の源泉がありうるという点、そして、幅広い観点から当市の受入れ政策について議論をすることができる相手であるという2点が挙げられました。

美作市でのベトナム人技能実習生受入れにあたっては、市の商工会が監理団体としての役割を担っているという点がひとつの特徴です。これは、ダナン大学との交流によって得られた知見を基にしながら、同市が商工会に働きかけたことがきっかけでした。監理団体として市の商工会を選んだ理由は、同市へ来る際の最初の入口として、安定的であること:つまり、利益動機だけではなく公共的な色彩を兼ね備えた監理団体として、生活の安定、支援の充実や外国人への支援を市と協力してできるのではないかと思ったから、と萩原市長はコメントされました。

美作日越友好協会の設立やダナンフェスティバルへの参加など、ベトナムと美作市の交流を促進するための活動とともに、市内住民のベトナムに対する理解、重要性を得るために続けてきた同市の努力は、受入れ政策を進めるにおいて欠かせないことでした。ダナン大学との関係を軸にしたかたちで取組を進めてきたこと、また、ベトナムからの外国人労働者の受入れの仕方が大変丁寧であったことから、同市を評価した上で、ベトナム国内の地域との関係を改めてつくってくれないか、という要請があり、イエンバイ省との友好協力関係につながり、現在は、具体的な事業展開に向かって進んでいるとのこと。

最後、日本における外国人受入れ政策に関し、萩原市長の視点から課題認識の共有をしてくださいました。外国人も地域社会の主力の構成員となって、日本社会、日本文化をともに守り、育てていく仲間となってほしいと考えておられる萩原市長。ただ、現行制度の「在留期間の制約」は、受入れ企業側の社内におけるキャリアパスを念頭に置いた雇用、パートナーシップと相反するものになっており、また、外国人にとっても、時限的な在留の中で日本語や日本文化の習熟に対する意欲を高く持つことは難しい、とコメントされました。「では、どうすべきか?」という問いに対し、外国人も日本社会で共に生きていくために必要な環境づくりをしっかりとやっていかなければ、と思っており、社会の重要な構成員として、積極的に文化の担い手になっていく、そんな社会構造になっていくべきだ、とご発言。そして、日本社会をサステイナブルなもの、活力のあるものとして維持していくために、「異次元の少子化政策」と並んで、「まっとうな形での対外政策(人的交流)」の再構築が必要であり、また、問題の重要性が国民に深く理解される進展の中で、司令塔組織が必要になってくるだろう、という点にも触れました。

質疑応答・パネルディスカッション
〇美作市 市長 萩原誠司様
〇JCIE 執行理事 毛受敏浩様
〇モデレーター JP-MIRAI事務局 宍戸健一

「外国人の受入れに関する将来の地域の絵姿は自治体が決めるべき、という話がありましたが、住民の声をはじめ、市内のステークホルダーの反応などはいかがですか?」

(萩原市長)市長着任時、市内人口が3万弱だったが、「10年間で3,000人くらいのペースで(外国人住民を)増やしていきたい旨、以前取材で答えたことがある。市として圧倒されないペースで受入れ、サポートができる数を積算した。3万に対し3,000人というのは、人口の1割程度。ゆっくりと増やしていくことができれば、上手く受入れられるのではと考えた。外国人受入れに関する市民の理解や受け止め方については、年年歳歳ポジティブになりつつあると思う。ネガティブな感情が減ってきている要因には、人口減少により、地域社会が存続していくためには、外国人の受入れの他に方法がないのではないか、ということが理性的に理解され、広まりつつあることが挙げられるだろう。また、スポーツや芸術文化など様々な分野において、日本人の定義に幅が出てきて、その定義の広がりが強く認識されていくようになったという点もあると考えている。

「JCIEで主催されている共生未来事業を通じ、色々な地方で様々な方と意見交換をする機会も多いと思いますが、地域における(外国人材受入れに係る)受け止め方について参考になる事例などはありますか?」

(毛受様)岡山県の特性だと思うが、「岡山県国際貢献活動推進条例」を定めるなど、外国人に対してとてもオープンマインドであり、そのような住民意識が強い地域ではないかと思っている。萩原市長の話を聞きながら、トップが明確な姿勢を示されている点が素晴らしいと思った。「社会として外国人をどのように位置付けるのか」に関し、リーダーが明確に示すことで、住民の納得を得られるのだと思う。美作市では「交流」を中心に取組を推進してきたことで、外国人が、労働者としてだけではなく、地域と交流していくことができ、受入れが上手く進んでいるのだろう。このように多様なかたちで交流を進めていく姿勢が重要である一方、そこまでの取組を行うことができている自治体はなかなか限られていると思う。

「市長のお話の中で、定住者を増やしていきたい、という話がありましたが、定住者を増やすことで、自治体側の負担が重くなる部分もあると思います。住民の理解はあるのでしょうか?」

(萩原市長)市内では、ベトナム人を始めとする外国人住民との交流が始まっている。交流をしている方々は、企業の外から(外国人住民を)見ているのにも関わらず、「居続けて欲しい」と思い始めており、外国人を地域の一員として受入れていることに対し、違和感が無くなってきている、というのは特筆すべき点。ベトナム人以外にも、結婚による定住者が当市でも増加傾向にあるが、(外国人だからといって)排他的な扱いを受ける、というような話は耳にしない。ただ、その理由の一つには、受入れている人数が少ない、というのはあると思う。住民が「圧倒されない」レベルで、受入れを進めていくという限りにおいては市民に理解してもらえるのではと考えている

「美作市ではどのような発信を外国人に対してしていますか?」

(萩原市長)ベトナム人がSNSをよく使用する点に着目し、FacebookとInstagramでベトナム語での発信を行っている。「美作市はこんなところ」という一般情報だけではなく、SNSを通じて来る外国人住民からの相談に対し、市役所のベトナム人職員が対応している、というやりとりの様子もそこはかとなく見えるようにしている。このような広報発信の宣伝効果は大きいのではないかと思う。

「美作市に在住しているベトナム人はどのような将来の夢やビジョンを持っていますか?」

(萩原様)コロナ前は、BBQをしながら話を聞く機会が多くあった。そのような場でベトナム人たちと話をすると、特に若者の多くはおしなべて「日本にいたいな」という気持ちがあったことを記憶している。日本に長く住む上で重要なことは、家族を日本で持てるかという点にあると考えており、賃金ももちろん大切であるが、教育もとても重要な要素である。

「選ばれる地域になるために、外国人子弟の教育に力を入れている地域の事例などはありますか?」

(毛受様)日系ブラジル人の集住地域ではそれらの取組を実施しているものの、日本人と同じレベルの学力になっているかどうかというと、そうではないのが実態。教育に関する課題は、親の経済力や日本語能力なども関連している複合的なものであり、包括的な支援が大切

「自治体関係者をはじめとする参加者へのメッセージをお願いします」

(毛受様)萩原市長の話を聞き、とても勇気づけられた。バイタリティー、エネルギーがないとできない取組だろうと思う。(本日の自治体・国際交流協会等勉強会のような)JICA、JP-MIRAIがつくる機会のなかで、共感の輪をいかに広め、世の中を動かしていくか、ということが必要だと思う。

(萩原様)「日本を守るために受入れが必要」という根本的な点を共通認識として持つべきではないかと考えている。国全体を動かしていくためにどうしたらいいのか、について、様々な主体を巻き込んで議論していきたいと思う。本日は当市の取組についてお話したが、地域だけでは解決できないことがたくさん残っていることについても最後にコメントしたい

(宍戸)本日の勉強会を通じ、萩原市長の強いビジョンとリーダーシップを基盤に行われている(人材確保という側面にとどまらない)複層的な取組やその戦略について理解が深まった。現在、技能実習制度の見直しに係る議論が進んでいるが、外国人受入れに係るビジョンについて、何らかのかたちで今後皆さんと議論が出来ればと思う。

勉強会後の参加者アンケートでは、萩原市長のリーダーシップや美作市の取組についてとても感銘を受けた、参考になったなどの声が多く寄せられました。また、日本の人口減少の現状や、地方自治体における具体的な取組について参考になった、地方が選ばれるために、参照できる事例があればまた話を聞きたい、今後もこのような自治体・国際交流協会等向けの勉強会を開催して欲しい、といった声も聞かれました。

JP-MIRAIでは、これらのアンケート結果も踏まえつつ、今後もテーマ毎の勉強会を実施して参ります。本勉強会に参加してくださいました皆様、誠にありがとうございました!

<参考:JP-MIRAI自治体・国際交流協会等勉強会について>

会員等による相互の取組の共有やJP-MIRAIを含む他機関との今後の連携を目的に2021年11月に「自治体・国際交流協会等第1回意見交換会」を実施しましたが、本意見交換会を通じ、各地域における多文化共生・外国人材受入れに係る取組の現状やニーズの多様性を再確認できた一方で、人材不足や日本語に関する取組など、地域横断的な共通課題があることも明らかになりました。

このような意見交換会の結果を受け、多文化共生推進の重要な担い手である自治体・国際交流協会等の地域のステークホルダーに対し、地域横断的な知見共有の場を提供することを通じた多文化共生社会の実現を主眼に、2022年4月以降、毎回テーマを定めて「自治体・国際交流協会等勉強会」を実施しています。

第1回の勉強会では、「戦略的な高度外国人材導入と選ばれる地方―『宮崎-バングラデシュモデル』」と題し、宮崎大学、九州センターと共催した合同セミナー形式で勉強会を実施(2022年4月27日6月27日8月4~5日)。全3回の本セミナーを通じて、地域における高度人材の導入の好事例である宮崎-バングラデシュモデルへの理解促進だけではなく、他地域で同様のモデルを展開する際、どのように産官学連携を進めていくことが出来るのか等、実務的な観点でも多くの学びあいがなされる場となりました。

第2回の勉強会は、「グローカル・ハタラクラスぐんま(GHKG)」と連携の可能性について」と題し、留学生の地域定着モデルの好事例であるGHKGについて理解を深め、また、他地域での展開に際する課題や工夫について考える機会を創出しました。

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