【パネルディスカッション】
今回は「マルチステークホルダーによる外国人労働者の労働・生活環境の改善に向けて」と題して、さまざまな立場で適正な外国人の受入れに取組む方々に登壇者としてお集まりいただき、「JP-MIRAIは今、何をすべきか」について議論いたしました。
◆日本繊維産業連盟 副会長/事務総長 富𠮷 賢一 様
繊維業界の外国人労働者の取り組みは大きく二つございます。まず、2018年以降、官民共同で繊維産業技能実習協議会を開催し、外国人労働者の取り組み方針をまとめました。過去10回行われた協議会では各団体の取り組みを共有して、意識の向上を図ることに努めています。また、昨年「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を公表し普及する取り組みに力を入れております。これらに加えて、今後外国人労働者の人権と密接な関係性があるサプライチェーン管理や取引適正化をより強化していきたいと感じております。
◆特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会 事務局長 八尋 英昭 様
特定非営利活動法人シェアは、全ての人々が心身共に健康に暮らせる社会の実現を目指す団体で、今年で設立40周年を迎えます。在日外国人の支援は1991年から開始しており、日本で医療へのアクセスが難しい在日外国人の保健医療相談、医療通訳の育成と派遣、通訳を入れた母親学級の開催等母子保健分野のサポートを行ってきました。コロナ禍の3年間は在日外国人へ適正な医療情報を届けるという活動にも力を入れました。
JP-MIRAIは、現在、「ビジネスと人権」が求める「救済」の仕組みの構築に注力されています。もちろん、それは大事ですが、それと共に日本で「救済」を必要とする外国人労働者を生み出さないことを目指していただきたい。「ビジネスと人権」は第1に、国家による人権の保護、第2に企業による人権の尊重を求めています。企業は直接雇用していなくても、自社のサプライチェーンの中で働いている外国人労働者の働きで自社のビジネスが成立していることを重くとらえていただきたい。彼らの人権を犠牲とするようなビジネスはフィージブルとは言えません。そのためには、職場の上司や同僚といった周りの人々が外国人労働者の脆弱性に配慮すること、彼らの人権と健康に対する理解が必須になります。企業には、この理解促進のための教育を考えてほしいと強く願います。JP-MIRAIの会員が率先して、日本を変えていただきたいと期待しています。
◆山梨県男女共同参画・共生社会推進統括官 外国人活躍推進監 小宮山 嘉隆 様
山梨県では、県在住の外国人が安心して働ける環境を構築するため、2020年山梨県外国人労働環境適正化ネットワークを設立しました。主な活動は、①山梨県から会員への外国人材の受入れに関する制度や行政機関等の支援事業についての情報提供、②会員向け勉強会、③外国人材の受入と定着・活躍促進のため、外国人材の日本語能力向上や多文化共生事業を支援する補助金制度の設定の3点です。地域の日本語教室に関連する事業を筆頭に地域交流イベント、専門用語語彙リスト作成といった日本語学習に関するものが主になっています。
専門用語語彙リストでは専門用語に限らず地域の方言も取り入れており、外国人の働きやすさの向上や職場でのコミュニケーションの活発化、労災の防止に繋がるという効果が表れています。今後も地域に合わせて取り組みを拡大していきたいと考えています。
◆花王株式会社ESG部門ESG活動推進部 シニアパートナー 大鹿 正人 様(VTR)
外国人労働者を共通テーマにマルチステークホルダーが集まるJP-MIRAIは、花王の企業理念である「豊かな共生社会の実現」を具体化するひとつの形と考えております。
昨年末に外国人労働者に対してのグリーバンスメカニズムを有するJP-MIRAIアシストに参画しました。JP-MIRAIでは民間企業だけでなく、自治体、NPO、学識者、弁護士など外国人労働者に関心をもつ多様な方々が集結し、様々な取り組みや課題の共有、ゼロフィー分科会の関係者が集まって一歩踏み出すアクションを議論する場もあります。今後は、地域での共生社会の実現を目指した取り組みにも関わりたいと考えており、更なるJP-MIRAIの発展に寄与していきたいと考えています。我々も.JP-MIRAIに参加し、JP-MIRAIという場を通じてあるべき姿を実現するためにみなさまと確実に取り組んでいく所存です。今後ともよろしくお願いします。
―企業の担当者だけでなく職場の同僚など、直接接する周りの方々が外国人をサポートする意識を高めるためにアイディア等ありますか。
八尋氏:外国人労働者が、サプライチェーンの先にいることが多いので、そう簡単ではないと思います。しかし、企業は自社のサプライチェーン全体に人権侵害が発生しないようにする責任があります。外国人労働者の人権を考える場合、健康に関して特に留意する必要があります。例えば、日本ではあまり意識されていませんが、結核は外国人コミュニティの中ではかかりやすい病気と認識されています。結核の治療は、投薬六ヶ月で周囲に感染させず、就労しながら治療が可能なのですが、それを知らない経営者や上司が、その外国人労働者をクビにして帰国させようとしたために、やむなく失踪し、病状を悪化させたような悲劇がいくつも起こりました。正しい知識と適切な助言ができる人が身近にいて、正しく治療を受けさせれば防げた悲劇です。外国人労働者の周囲に信頼できる日本人がいないために、結核に罹患した外国人労働者が事実を隠したり、極端な場合には失踪や不法滞在の末、強制送還されたりすることになります。医療界では感染者が発見された国内で治癒させることが常識であり、結核治療中の外国人を母国に帰してしまうと、薬剤耐性を持った結核菌保有者を海外に送り返すことになります。これは日本という国レベルで見過ごせない問題となります。サプライチェーンの中で、どこに脆弱な方がいらっしゃるか、外国人の人権と健康を考える上で、どのようなことを知っておくべきなのか、周囲の方に対する教育を行うことを考えていただきたいと思っています。
―サプライチェーン管理の課題の中でも、ブランドホルダーの企業がサプライヤーに理解してもらうことが一番難しいという声を聞きます。繊維産業における浸透の取り組みや苦労を聞かせてください。
富𠮷氏:私は「人権のガイドライン」を説明する際には、必ず日本国憲法の「基本的人権」を入り口にして、理解してもらえるように努めています。デュー・ディリジェンスの中で非常に重要な「弱者」の概念についても、世の中のハラスメントが「弱者」に対して起きており、その弱者の代表例の一つが外国人であると着目してもらえるよう地道に説明を繰り返しています。上場企業にとっては、人権が環境と並んで重要な項目になり意識が向上してきたと感じますが、繊維産業は上場企業の比率が0.1%です。残る99.9%の意識向上は課題であり、ぜひ皆様からお知恵をお借りしたいと思っています。
―地域でも多文化共生が重要な課題ですが、山梨県での取り組みや特に力を入れている点についてコメントいただけますでしょうか。
小宮山氏:多文化共生業務には昨年から従事していますが、多文化マインドを持っている方には青年海外協力隊経験者や留学経験者のように、自らがマイノリティとなる社会の中で苦労した経験を持つ方が多く、外国人に対し当事者意識を持っていると感じます。一方で、当事者意識を持つことが難しい人もいます。山梨県では、より多くの人が外国人に対して「共事者意識(共に事を成す)」を持てるような政策を展開する予定です。例えば、外国人と一緒に協力して汗を流すような交流イベントなどを考えています。
―山梨県でも自治体と企業が連携して外国人に接する機会や価値観、情報を共有する場がありますでしょうか。
小宮山氏:日本語教室を県内各地域に展開しております。この日本語教室は、日本語を教える・学ぶというよりも、外国人参加者が地域とつながる、困ったときに助け合う関係性を作ることに重点を置いています。企業の経営者の方々にも話をして、日本語教室を活用しながら、外国人労働者の人たちが触れ合う場所「サードプレイス」を構築し、経営者側も外国人に優しく接することができる環境づくりをしています。
―今後JP-MIRAIに期待することやってみたいことがあればお願いいたします。
富𠮷氏: JP-MIRAIに期待することは、現状業界の中で対応しきれていないグリーバンスメカニズムとJP-MIRAIアシストの多言語相談・救済窓口です。グリーバンスメカニズムについて、ガイドラインでは必要性を指摘するにとどまっており、JP-MIRAIには仕組み作りの役割を果たしていただけるとありがたいと考えています。
小宮山氏:山梨県内では、毎年青年海外協力隊のOBが中心となって技能実習生の運動会を開催しています。このように、JP-MIRAIが技能実習生と企業が集う場になるものを企画してほしいです。私たちは、企業が外国人就労者を実際にどう見ているか、何が起こっているかを知りたいと考えています。
八尋氏:シェアは、外国人の支援を掲げて30年が経ちましたが、私共シェアの事業規模だけでは限界があります。様々な団体が外国人の課題に取り組み、支援していますが、それぞれの活動や支援に携わる協力者をどう融合し、統合できるのか。雇用する企業、自治体、交流協会、商工会支援団体等さまざまなステークホルダーが連携して、「救済」を必要とする外国人労働者を生み出さない社会を目指したい。JP-MIRAIがその協働の場になること、また、外国人労働者は地方に多くいらっしゃるので、今後、JP-MIRAIが地方にもそのネットワークを広げていくことを期待しています。外圧で求められたから渋々やるのではなく、日本ならではの人権先進国を共に目指しましょう。