【実施報告】公開フォーラム「マルチステークホルダーによる外国人労働者の労働・生活環境の改善に向けて」【2023年5月19日】

2023年05月31日

2023年5月19日、JP-MIRAIは、2023年公開フォーラム「マルチステークホルダーによる外国人労働者の労働・生活環境の改善に向けて」を、JICA市ヶ谷ビル国際会議場で開催しました。フォーラムはハイブリッド形式としてオンラインでも配信しました。会場・オンライン合計111名の方にご参加いただきました。
公開フォーラムでは、JP-MIRAI事務局から2023年5月までの活動ハイライトの報告と、企業・自治体・NGOからの登壇者を招いたパネルディスカッション「日本、JP-MIRAIは今何をすべきか!」 を実施しました。

1.開催概要
(1) 名称:責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)2023年公開フォーラム「マルチステークホルダーによる外国人労働者の労働・生活環境の改善に向けて」
(2) 開催日:2023年5月19日(金)16:00~17:30 
(3) 場所:東京都新宿区市ヶ谷本町10-5 JICA市ヶ谷ビル2階 国際会議場【+オンライン配信】

2.プログラム
(1) 主催者挨拶:一般社団法人 JP-MIRAIサービス 代表理事 矢吹 公敏
(2) 来賓挨拶:外務省 総合外交政策局 人権人道課 課長 髙澤 令則 様 (オンライン)
(3) JP-MIRAI活動ハイライト:JP-MIRAI事務局
(4) パネルディスカッション 徹底討論「日本、JP-MIRAIは今何をすべきか!」
  登壇者(順不同):
  ◆日本繊維産業連盟 副会長/事務総長 富𠮷 賢一 様
  ◆特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会 事務局長 八尋 英昭 様
  ◆山梨県男女共同参画・共生社会推進統括官 外国人活躍推進監 小宮山 嘉隆 様
  ◆花王株式会社ESG部門ESG活動推進部 シニアパートナー 大鹿 正人 様(VTR)
  モデレーター:JP-MIRAI事務局 宍戸 健一
(5) 名刺交換・会員の交流 (閉会後、会場参加者のみ)

【主催者挨拶】一般社団法人 JP-MIRAIサービス 代表理事 矢吹 公敏

入管法改正や技能実習・特定技能制度の見直しの議論が進む中、我が国の外国人労働者を取り巻く状況も大きく変化しています。また、外国人労働者の方々の渡航先として、日本だけでなく、台湾や韓国等への関心も高まっていると仄聞しています。進展する日本の人口減少傾向を考えると、日本がより多様性を持った国になり、外国人の方々に選ばれなければいけない立場になっていると考えています。
私の所属する弁護士業界は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく人権デュー・ディリジェンスの役割を担っています。そして、私が担当している東京弁護士会のADR(裁判外紛争手続)では、「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、苦情処理手続きであるグリーバンスメカニズムの策定を企画しています。日本が、外国人から選ばれる国になることを実現する一助になればと願っています。
昨今、外国人による犯罪など、好ましくない報道を耳にすることもあります。しかしながら、私自身は、日常的に、多くの、意欲に満ちたすばらしい外国人の方々に接します。私はアジアにおける法制度の整備に30年関わって参りましたが、国によるレベル差はあるものの、各国の工場で働く若者たちは、仕事への集中力や能力が高いと感じました。工場で一生懸命働く若者たちを見る度に、むしろ日本よりも優れている面もあるのではないかと思うこともあります。
こうした外部環境の下で、JP-MIRAIはいくつかの事業を展開しています。2022年5月に開始した「外国人労働者相談・救済パイロット事業」では、日本企業によるビジネスと人権の取り組みをサポートし、外国人の方々が働きやすい職場環境の実現に向けた仕組みづくりを行いました。そして、パイロット事業の経験や、企業・有識者の方々のご意見を踏まえて、より総合的に企業を支援する「企業協働プログラム」を今月から開始しています。今後は、一歩踏み込んで、外国人労働者の方々が直面する重大な人権侵害法令違反の予防と状況改善を目指し、新しい取組みとして、外国人労働者が自らの状況を分析するための自己診断ツールの開発に着手しています。。
本日のフォーラムは「マルチステークホルダーによる外国人労働者の労働生活環境の改善に向けて」と題し、様々な立場で外国人労働者の適正な受入れに取組む方々に登壇者としてお集まりいただきました。JP-MIRAIだけでなく、日本で外国人労働者の受入れに携わるすべての方々が今何をすべきか意見交換していただくことで、私どもが進むべき未来が見えてくると思いますので、参考にして頂ければ幸いです。

【来賓挨拶】外務省 総合外交政策局 人権人道課 課長 髙澤 令則 様
 
日本は2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を策定致しました。この計画は、社会全体の人権の保護促進、関連政策の一貫性の確保、日本企業の国際的な競争力及び持続可能性の向上、そしてSDGs達成への貢献を目的に分野別の取り組みを整理しております。この行動計画の中では、2011年国連人権理事会で支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」を踏まえて、政府から企業への期待表明として、人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンスの実施、救済メカニズムの構築の三点を挙げております。このうち、救済メカニズムの構築につきましては、様々な仕組みが議論されております。JP-MIRAIによる事業は、救済メカニズムの一つのあり方を具体的に提示するものとして、「ビジネスと人権に関する指導原則」や我が国の行動計画の着実な履行を図る上で、非常に参考になる取り組みだと認識しております。
 
2021年11月に、外務省と経済産業省で共同実施した「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」によれば、被害者救済・問題是正のためのガイドラインや手続きを定めている企業は回答企業の約5割であり、そのうち9割は企業内に通報窓口を設置しています。
JICAが関与し、マルチステークホルダーから構成されるJP-MIRAIによる事業は、企業から独立した中立性を有しており、外国人労働者にとって利用しやすい手段を提供すると同時に、効果的な苦情処理の仕組みを単独で構築することが難しい企業にとっての一助にもなると理解しております。
またJP-MIRAIのポータルサイトや相談対応等を通じて寄せられる外国人労働者の声や実情を分析し、参加企業にフィードバックすることによって、企業が対処すべき問題を具体的に把握して、実態に即した人権方針の策定、サプライチェーンも含む人権デュー・ディリジェンスの効果的な実施につなげることができるのではないかと思っております。
6月から新しい体制でJP-MIRAIの事業が本格化するとお伺いしております。JP-MIRAIがこれまでに得られた数々の知見を活かし、日本で働く外国人の人権確保、そして日本企業によるサプライチェーンを含めた人権尊重のための取り組みを支えて、様々なステークホルダーが共に取り組むプラットフォームとして、より効果的に機能していくことを心より期待しております。
 
【JP-MIRAI活動ハイライト】
 
2023年は「外国人労働者との情報共有・共助」、「ビジネスと人権』における協働」、「学びあいと内外への発信」の三つの柱に沿って活動を進めています。
「外国人労働者との情報共有・共助」では、JP-MIRAIポータルサイトにコンテンツを新規追加しました。また、外国人労働者の人権に関する自己診断シートである「JP-MIRAIセーフティ」を開発しており、6月から運用を開始する予定です。
「『ビジネスと人権』における協働」では、「責任ある外国人労働者受け入れ企業協働プログラム」を2月3日に公表しました。また、会員向け研究会や分科会での意見交換、情報提供および相談救済窓口のJP-MIRAIアシストに加えて、今後は6月1日開始予定のJP-MIRAIセーフティの集計データの活用やJP-MIRAI認証制度により、企業団体における外国人労働者の課題解決の取り組みを支援します。
「学び合いと内外への発信」では、セミナーを6回、自治体国際交流協会向けの勉強会を2回、テーマを決めて会員同士での交流を目的としたJP-MIRAIサロンを3回開催しました。また、4月28日にはホームページを全面リニューアルいたしました。
 
JICAが実施している「JP-MIRAI外国人相談・救済事業」では、通称JP-MIRAIアシストとして、9言語対応の外国人労働者相談窓口を運営しています。一般の外国人労働者を対象として行う事業であるJICAロットと、参加法人とともに企業のサプライチェーン上の外国人労働者の方々を対象に救済メカニズムの構築を目指す企業ロットの二つがあり、取り組み行ってきました。実績、パイロット事業詳細については、別途資料をご覧下さい。

JP-MIRAI活動ハイライト資料はこちら

【パネルディスカッション】

今回は「マルチステークホルダーによる外国人労働者の労働・生活環境の改善に向けて」と題して、さまざまな立場で適正な外国人の受入れに取組む方々に登壇者としてお集まりいただき、「JP-MIRAIは今、何をすべきか」について議論いたしました。

◆日本繊維産業連盟 副会長/事務総長 富𠮷 賢一 様

繊維業界の外国人労働者の取り組みは大きく二つございます。まず、2018年以降、官民共同で繊維産業技能実習協議会を開催し、外国人労働者の取り組み方針をまとめました。過去10回行われた協議会では各団体の取り組みを共有して、意識の向上を図ることに努めています。また、昨年「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を公表し普及する取り組みに力を入れております。これらに加えて、今後外国人労働者の人権と密接な関係性があるサプライチェーン管理や取引適正化をより強化していきたいと感じております。

◆特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会 事務局長 八尋 英昭 様

特定非営利活動法人シェアは、全ての人々が心身共に健康に暮らせる社会の実現を目指す団体で、今年で設立40周年を迎えます。在日外国人の支援は1991年から開始しており、日本で医療へのアクセスが難しい在日外国人の保健医療相談、医療通訳の育成と派遣、通訳を入れた母親学級の開催等母子保健分野のサポートを行ってきました。コロナ禍の3年間は在日外国人へ適正な医療情報を届けるという活動にも力を入れました。

JP-MIRAIは、現在、「ビジネスと人権」が求める「救済」の仕組みの構築に注力されています。もちろん、それは大事ですが、それと共に日本で「救済」を必要とする外国人労働者を生み出さないことを目指していただきたい。「ビジネスと人権」は第1に、国家による人権の保護、第2に企業による人権の尊重を求めています。企業は直接雇用していなくても、自社のサプライチェーンの中で働いている外国人労働者の働きで自社のビジネスが成立していることを重くとらえていただきたい。彼らの人権を犠牲とするようなビジネスはフィージブルとは言えません。そのためには、職場の上司や同僚といった周りの人々が外国人労働者の脆弱性に配慮すること、彼らの人権と健康に対する理解が必須になります。企業には、この理解促進のための教育を考えてほしいと強く願います。JP-MIRAIの会員が率先して、日本を変えていただきたいと期待しています。

◆山梨県男女共同参画・共生社会推進統括官 外国人活躍推進監 小宮山 嘉隆 様

山梨県では、県在住の外国人が安心して働ける環境を構築するため、2020年山梨県外国人労働環境適正化ネットワークを設立しました。主な活動は、①山梨県から会員への外国人材の受入れに関する制度や行政機関等の支援事業についての情報提供、②会員向け勉強会、③外国人材の受入と定着・活躍促進のため、外国人材の日本語能力向上や多文化共生事業を支援する補助金制度の設定の3点です。地域の日本語教室に関連する事業を筆頭に地域交流イベント、専門用語語彙リスト作成といった日本語学習に関するものが主になっています。

専門用語語彙リストでは専門用語に限らず地域の方言も取り入れており、外国人の働きやすさの向上や職場でのコミュニケーションの活発化、労災の防止に繋がるという効果が表れています。今後も地域に合わせて取り組みを拡大していきたいと考えています。

◆花王株式会社ESG部門ESG活動推進部 シニアパートナー 大鹿 正人 様(VTR) 

外国人労働者を共通テーマにマルチステークホルダーが集まるJP-MIRAIは、花王の企業理念である「豊かな共生社会の実現」を具体化するひとつの形と考えております。

昨年末に外国人労働者に対してのグリーバンスメカニズムを有するJP-MIRAIアシストに参画しました。JP-MIRAIでは民間企業だけでなく、自治体、NPO、学識者、弁護士など外国人労働者に関心をもつ多様な方々が集結し、様々な取り組みや課題の共有、ゼロフィー分科会の関係者が集まって一歩踏み出すアクションを議論する場もあります。今後は、地域での共生社会の実現を目指した取り組みにも関わりたいと考えており、更なるJP-MIRAIの発展に寄与していきたいと考えています。我々も.JP-MIRAIに参加し、JP-MIRAIという場を通じてあるべき姿を実現するためにみなさまと確実に取り組んでいく所存です。今後ともよろしくお願いします。

―企業の担当者だけでなく職場の同僚など、直接接する周りの方々が外国人をサポートする意識を高めるためにアイディア等ありますか。

八尋氏:外国人労働者が、サプライチェーンの先にいることが多いので、そう簡単ではないと思います。しかし、企業は自社のサプライチェーン全体に人権侵害が発生しないようにする責任があります。外国人労働者の人権を考える場合、健康に関して特に留意する必要があります。例えば、日本ではあまり意識されていませんが、結核は外国人コミュニティの中ではかかりやすい病気と認識されています。結核の治療は、投薬六ヶ月で周囲に感染させず、就労しながら治療が可能なのですが、それを知らない経営者や上司が、その外国人労働者をクビにして帰国させようとしたために、やむなく失踪し、病状を悪化させたような悲劇がいくつも起こりました。正しい知識と適切な助言ができる人が身近にいて、正しく治療を受けさせれば防げた悲劇です。外国人労働者の周囲に信頼できる日本人がいないために、結核に罹患した外国人労働者が事実を隠したり、極端な場合には失踪や不法滞在の末、強制送還されたりすることになります。医療界では感染者が発見された国内で治癒させることが常識であり、結核治療中の外国人を母国に帰してしまうと、薬剤耐性を持った結核菌保有者を海外に送り返すことになります。これは日本という国レベルで見過ごせない問題となります。サプライチェーンの中で、どこに脆弱な方がいらっしゃるか、外国人の人権と健康を考える上で、どのようなことを知っておくべきなのか、周囲の方に対する教育を行うことを考えていただきたいと思っています。

―サプライチェーン管理の課題の中でも、ブランドホルダーの企業がサプライヤーに理解してもらうことが一番難しいという声を聞きます。繊維産業における浸透の取り組みや苦労を聞かせてください。

富𠮷氏:私は「人権のガイドライン」を説明する際には、必ず日本国憲法の「基本的人権」を入り口にして、理解してもらえるように努めています。デュー・ディリジェンスの中で非常に重要な「弱者」の概念についても、世の中のハラスメントが「弱者」に対して起きており、その弱者の代表例の一つが外国人であると着目してもらえるよう地道に説明を繰り返しています。上場企業にとっては、人権が環境と並んで重要な項目になり意識が向上してきたと感じますが、繊維産業は上場企業の比率が0.1%です。残る99.9%の意識向上は課題であり、ぜひ皆様からお知恵をお借りしたいと思っています。

―地域でも多文化共生が重要な課題ですが、山梨県での取り組みや特に力を入れている点についてコメントいただけますでしょうか。

小宮山氏:多文化共生業務には昨年から従事していますが、多文化マインドを持っている方には青年海外協力隊経験者や留学経験者のように、自らがマイノリティとなる社会の中で苦労した経験を持つ方が多く、外国人に対し当事者意識を持っていると感じます。一方で、当事者意識を持つことが難しい人もいます。山梨県では、より多くの人が外国人に対して「共事者意識(共に事を成す)」を持てるような政策を展開する予定です。例えば、外国人と一緒に協力して汗を流すような交流イベントなどを考えています。

―山梨県でも自治体と企業が連携して外国人に接する機会や価値観、情報を共有する場がありますでしょうか。

小宮山氏:日本語教室を県内各地域に展開しております。この日本語教室は、日本語を教える・学ぶというよりも、外国人参加者が地域とつながる、困ったときに助け合う関係性を作ることに重点を置いています。企業の経営者の方々にも話をして、日本語教室を活用しながら、外国人労働者の人たちが触れ合う場所「サードプレイス」を構築し、経営者側も外国人に優しく接することができる環境づくりをしています。

―今後JP-MIRAIに期待することやってみたいことがあればお願いいたします。

富𠮷氏: JP-MIRAIに期待することは、現状業界の中で対応しきれていないグリーバンスメカニズムとJP-MIRAIアシストの多言語相談・救済窓口です。グリーバンスメカニズムについて、ガイドラインでは必要性を指摘するにとどまっており、JP-MIRAIには仕組み作りの役割を果たしていただけるとありがたいと考えています。

小宮山氏:山梨県内では、毎年青年海外協力隊のOBが中心となって技能実習生の運動会を開催しています。このように、JP-MIRAIが技能実習生と企業が集う場になるものを企画してほしいです。私たちは、企業が外国人就労者を実際にどう見ているか、何が起こっているかを知りたいと考えています。

八尋氏:シェアは、外国人の支援を掲げて30年が経ちましたが、私共シェアの事業規模だけでは限界があります。様々な団体が外国人の課題に取り組み、支援していますが、それぞれの活動や支援に携わる協力者をどう融合し、統合できるのか。雇用する企業、自治体、交流協会、商工会支援団体等さまざまなステークホルダーが連携して、「救済」を必要とする外国人労働者を生み出さない社会を目指したい。JP-MIRAIがその協働の場になること、また、外国人労働者は地方に多くいらっしゃるので、今後、JP-MIRAIが地方にもそのネットワークを広げていくことを期待しています。外圧で求められたから渋々やるのではなく、日本ならではの人権先進国を共に目指しましょう。

特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会 事務局長 八尋 英昭 様の資料はこちら

山梨県男女共同参画・共生社会推進統括官 外国人活躍推進監 小宮山 嘉隆 様の資料はこちら

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