本企画では、毎月1回会員各位の外国人労働者受け入れ事例を紹介しています。
第3回に登場するのは、久健興業株式会社の山口健社長で、企業会員としてJP-MIRAIに参加されています。
久健興業株式会社は、北海道千歳市にある建設会社で、土木建設工事、一般住宅の新築・リフォーム工事、仲介や売買を中心とした不動産業を幅広く行い、現在、従業員は50人で、そのうち、24人のベトナム人技能実習生が建設現場で働いています。また、山口社長は、監理団体である北海道技術支援協同組合の代表理事や一般社団法人北海道鳶土木工業連合会の理事としても、適切な技能実習生の受入れや、日本に受け入れた技能実習生の技術向上などに取り組まれています。
久健興業株式会社 https://www.hisaken.co.jp/
4月の中旬、JP-MIRAI事務局によりオンラインインタビューを実施しました。
Q:外国人労働者を採用するきっかけについて教えてください
人手不足で悩んでいたところ同業者に技能実習制度を紹介され、2017年1月から受け入れを開始しました。受け入れ前は、単価も安く、外国人を雇用するのがはやっていると聞いていたので、軽い気持ちでベトナムに行き、技能実習の希望者と面接を行いました。
面接の際も、最初は、採用してあげると上から目線で見ていたのですが、私から「日本に来てしたいことは何か」と聞いたとき、希望者から「チャンスをつかみたい」と言われたことにより、このような態度でいてはだめだ、実習生の将来を考える責任があると感じました。
この時、18歳の時に父を亡くし貧しかったころのことを思い出していました。当時、高校を中退し23歳で独立した経験から、このような思いに至りました。
Q:外国人労働者(技能実習生)を受け入れている中で課題と感じていることはありますか?
言葉の壁が一番の課題と感じています。ベトナムで面接後、半年間、現地で日本語を勉強して来日しますが、現地では教員もベトナム人なので、技能実習生は来日時に、十分に会話ができない状況です。
建設業は危険な作業もあるため、「危ない!」とすぐに反応しければならない時があるので、言葉の壁は問題になります。業務の中で必要な言葉は、現場で最初に伝えていますが、それ以外にも、送迎の車の中や休憩時間などに、前の晩の食事の話や家族のことなど、積極的に日常会話をしています。
制度面では、技能実習生が第3号技能実習に変わる時の試験の内容が難しすぎること、練習問題がないことなどが課題と感じています。
Q:責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)は、会員企業・団体に、「責任ある外国人受け入れのための5つの行動原則」の実践を呼び掛けていますが、技能実習生の受け入れ企業としての心構えや気を付けていることなどはありますか?
①「関係法令を遵守します」ということについて
たとえば、残業代が払われていないのではないかというようなことについて、疑われるような行動はとらないということを心がけています。あなたたちを絶対にだまさないという態度を示し、ここに身を預けても大丈夫だという信頼関係を築くようにしています。
②「外国人労働者の人権を尊重し労働環境・生活環境を把握し、課題の解決に努めます」ということについて
1期生(5年目の実習生)が4人いるので、24人の実習生を6人ずつ4班に分けて、2期生以降の実習生が必要なこと、困っていることなどを各班のリーダーに伝えることができるような体制を整えています。さらに、各班には、リーダーの実習生が、相談しやすいなどの理由から指名した日本人従業員をメンターとして配置して、いつでも相談できるような、要望を聞けるような体制にしています。これまで、追加の自転車や扇風機などの要望があり対応してきました。
③「外国人労働者との相互理解を深め、信頼関係を醸成します」ということにについて
技能実習生に一方的に日本語を教えるというのではなく、日本人従業員も、技能実習生からベトナム語を教えてもらい、お互いにそれぞれの言葉を覚えて信頼関係を築くよう心がけています。私の家に実習生が遊びに来たり、従業員も、実習生の家に遊びにいったりと、同僚としての付き合いをしています。
また、法律が改正された際には、通訳の方にはいってもらい、実習生全員に雇用条件も含め改正点を説明し、毎年昇給することも伝えました。これまで失踪した実習生はいませんが、1人だけ、家業を継ぐことになり、途中で帰国した実習生がいました。帰国後も、彼と連絡を取っていたところ、昨年ベトナムで大洪水があり、彼の実家や村の人たちが被害を受けたことを知り、日本で募金を集め、彼を通じて現地に寄付をしました。彼は、現在、コロナ禍で事業が厳しくなり、もう一度日本に戻ってきたいと希望しているため、手続きを進めているところです。
④「外国人労働者の能力開発に尽力します」ということについて
当社には、環境、技術、広報の委員会を設けており、技術委員会の中で日本語が勉強できるようにしています。また、一般社団法人北海道鳶土木工業連合会と協力して、ベトナム人技能実習生向けの「玉掛け技能講習」や「足場の組立て等作業従事者特別教育」を受講できるようにしています。嬉しいことに受講者全員が試験に合格しました。技能実習生がベトナムに戻ってからも、日本で習得した技術をいかせるようにと、現地で建設などを行っている企業と話をしているところです。ベトナムで建設事業を行っている会社から仕事を請け負い、当社から彼らに給与を払うことができるよう現地に支社を作りたいという想いもあります。1期生が終了するのは、2022年の2月ごろで、そのうち何人かは、特定技能に切り替えたいと言ってくれているので、当社にとってもベテランのスタッフが増えることはうれしいことです。
Q:山口社長は、監理団体の代表理事もされていますが、監理団体として気をつけていることはありますか?
外国人労働者は、誰でも受け入れることができるわけではありません。受入企業については、外国人を受け入れる体制ができているのかということを重視しています。
失踪の理由はほとんどが賃金や扱いに関するものです。技能実習生の状況と受入企業のミスマッチを防ぐために、飲酒や喫煙などの実習生に求める条件や、実習生が使用する部屋や家具、作業に使う道具について支給かリースかなど、企業の募集条件を最初から明確にしておくことが重要と考えています。
さらに、監理団体として、企業に対しては、何がリスクになるのかということや実習生が集まりやすい条件などを伝えるようにしています。
送り出し機関については、現地で直接訪問し、ブローカーをはさまないようにしてもらっています。ブローカーが間に入ると手数料がどんどん上乗せされてしまうため、来日するベトナム人に迷惑がかかります。そのため、ブローカーをはさむようでしたら取引はしないということを明確に伝えています。
Q:技能実習生の受け入れを始めて以降、社長以外の社員の意識の変化や、会社への良い影響はありましたか?
5年前に技能実習生を受け入れるという話をしたときには、社内では大丈夫だろうかという反応もありましたが、今では、言葉の壁さえクリアすれば関係ないという認識になりました。技能実習生を受け入れたことにより、相手に対して気持ちをうまく伝えることができるような経験ができたのは会社にとっても従業員にとってもよかったです。
Q:JP-MIRAIに期待していることはありますか?
外国人を受け入れた後に、仕事がなくなってしまうこともあり、それが失踪の原因になってしまうこともあります。そのような時に、情報が共有できたり、また、失踪の原因についても情報共有できるような仕組みがあるとよいと感じています。
Q:なぜ日本で働きたいと思ったのですか?
私の家族は、昔から大変でした。日本に来る前に、先輩や先生から、日本は世界でも経済が強い国と聞いていたので、行ってみたいと思いました。たくさん働いて、お金をためて、自分の子どもも家族も幸せになりたいと思ったのです。
Q:「久健興業株式会社」で働いて、期待どおりでしたか?期待を上回る経験はありましたか?
日本人のイメージが変わりました。日本のことは、70年から80年前にたくさん戦争していたということを教えられていたので、そのようなイメージでした。
日本に来て、日本人は本当にやさしいと思いました。スーパーに行って、売り場がどこにあるか聞くとそこまで連れていってくれて、驚きました。職場の先輩もたくさん仕事も日本語も教えてくれて、うれしかったです。
日本に来たばかりのころは、私は日本語がわからないので苦労しました。今は私のようなベトナム人の先輩がいることによって、後輩は仕事がしやすくなっていると思います。
Q:日本に来る前に、知っておいたほうが良かった情報はありますか?
これから行く会社がいい会社かどうか、について事前に知ることができるといいと思います。良くない会社もあるようですが、ベトナムから日本に行く前には現在はその情報を知ることができないのです。
Q:来日前、ベトナムで研修を受けているときに、困ったことはありましたか?
半年、センターで勉強して、日本語が本当に難しかったです。それ以外は困ったことはなかったです。
Q:外国人労働者を受け入れる日本の企業・団体にどのようなことを期待しますか?
日本の会社は、外国人に対する思いやりを持ってもらいたいと思います。日本人には仕事の話しかしない人もいますが、できれば「困ったことあるの?」「なんで楽しくないの?」「家族が入院しているから寂しいよね?」と、外国人の表情を見ながら声をかけてくれるといいです。
Q:あなたは、会社以外の外国人労働者との交流はありますか?
いろいろなところに行って、ベトナム人以外に、中国人、タイ人、ミャンマー人、フィリピンの人にもたくさん会いました。その時に日本語で会話して、あなたの出身地はどこですか、仕事は楽しいですか、ということを話しました。
Q:JP-MIRAIに外国人労働者の視点から何を期待しますか?
注意深く、技能実習生のことを調べてほしいです。
自分の会社ではないですが、悪い会社で働いている外国人労働者は、不満を持っていることも多いです。若い日本人が日本語をわからない外国人をいじめている、そんなことを聞くこともあります。思いやりのない若い日本人が、外国人労働者の悪口を話しているということもあります。このような状況をJP-MIRAIに調べてほしいと思います。
山口さん、THANHさんとも、お忙しい中長い時間をこのJP-MIRAIの取材のために割いて頂きました。この場を借りて感謝申し上げますと同時に、JP-MIRAIとしても皆様の意見をきちんと今後の活動に活かしていきたいと思います。
<取材執筆協力 株式会社クレアン 秋山映美・岸田匡>
*山口社長のインタビューについては右リンクでもご覧頂けます。 https://creators.yahoo.co.jp/kishidahirokazu/0200089407