行動原則実践事例紹介 第10回 株式会社ジェイサット

2022年02月02日

本企画では、会員各位の外国人労働者受け入れ事例を紹介しています。
第10回でご紹介するのは、株式会社ジェイサットです。株式会社ジェイサットは企業会員としてJP-MIRAIに参加され、2021年度上半期活動報告会ではご発表もいただきました。
株式会社ジェイサットのウェブサイトは右記をご覧下さい。https://www.j-sat.jp/
1月上旬に、JP-MIRAI事務局によりオンラインインタビューを実施しました。株式会社ジェイサットからはミャンマー、日本双方の事務所よりインタビューにご参加頂きました。

<株式会社ジェイサット ゼネラルマネージャー 森川晃さん>

Q:株式会社ジェイサットについて教えてください。

株式会社ジェイサットは1998年に設立されました。もともと日本企業のミャンマー進出支援から始まった会社ですが、ミャンマーに進出した企業が現地で経験豊富な人材を確保することに悩んでいたため、クライアント企業のサポートのためにミャンマー人の人材紹介事業も始めたのです。今では当社はミャンマー進出日系企業の8割に利用頂いており、毎年は5000人以上の人材を日系企業に紹介させて頂いています。日系企業向けミャンマー人材紹介会社では最大手の会社になります。
ミャンマー人材を日本企業本社に送り出しする事業を始めたきっかけは、ミャンマーに進出するクライアント企業から「日本でミャンマー人材を教育し、その後ミャンマーの支社に送り込みたい」というニーズを頂いたのでそれに答えたものです。既存の外国人労働者の送り出し機関を模倣したものではないので、当社の取り組みにはユニークな部分が多くあると思います。
実際、当社はミャンマーにベースを置く会社として、従来の技能実習だと帰国した後ミャンマーで活躍できる能力が身についていないことに違和感を抱いていました。当社から、日本企業の新しいミャンマー人採用モデルを作れればと思っています。

Q:JP-MIRAIでは、会員企業・団体に、「責任ある外国人受け入れのための5つの行動原則」を実践して頂くよう呼び掛けています。下記の行動原則に関連する取り組みを教えてください。

行動原則3「私たちは、働く場と生活の場の両方で、外国人労働者との相互理解を深め、信頼関係を醸成します。」の実践をしています。具体的には下記のとおりです。
日本企業で働きたがるミャンマー人材は多いです。しかし、実は「日本企業の考える当たり前」と「外国人労働者(当社の場合はミャンマー人材)の考える当たり前」には大きなズレがあります。

この「ズレ」を放置したままでは外国人材が日本企業で安心して働くことはできず多くの問題が生まれてきます。当社では、この「ズレ」を解消しミャンマー人材が長く安心して日本企業で働いてもらえるようにいくつかの「モデル」を作っています。
まず、「キャリア達成シート」を企業に作ってもらいます。下記は一例です。

上記は介護の技能実習生のキャリア達成シートの一例です。大事なことは、外国人材に何を求めるのかを企業に明確にしてもらうことなのです。往々にして技能の技術面を磨けばいいという外国人材の思いに対し、日本企業は身だしなみや時間管理などを求めることが多く、そこにズレが生じます。企業がキャリア達成シートを用意し、外国人材と目標をすり合わせることでズレが解消されるのです。
こういったキャリア達成シートを自社で用意している企業もありますが多くの中小企業は自分では用意していません。そのため当社が企業と一緒に外国人材のためのキャリア達成シートを作成していきます。
更に、企業に必ず作成をお願いするのが「キャリアパス」です。

上記も介護の技能実習生のキャリアパスの一例になります。日本で初めて働く外国人材には「キャリア」のイメージがわかない人が多いのです。そういう人材たちに、日本で働いていく中でのキャリアのイメージを作ってあげるのが目的です。
現状技能実習の期間は最長5年です。この期間を終え特定技能の在留資格を持って外国人材が更にキャリアを重ねていくときに、転職してしまう危険もあります。それを防ぐためにも、技能実習の受け入れ先の企業が、外国人材が特定技能の在留資格へと変更した後のキャリアを最初から提示する必要があるのです。
往々にして短期的視点の外国人材と長期的視点の受け入れ企業との間には視点のミスマッチが起きます。これを是正するため、当社は受け入れ企業と一緒になってキャリア達成シート、キャリアパスを作り、企業の外国人材に対する説明会の際には必ず提示してもらうようにしているのです。
外国人材が企業に内定した後も、企業に1カ月に1度の面談をしてもらっています。みなし残業などの規定がある場合はそれもすべて事前に説明してもらっています。

実は日本企業の課題として、日本人社員も若い人が辞めています。外国人材日本人材関係なく、人材に選んでもらう企業になるためには企業が社員のキャリアパスを明確に提示できることが必要なのだとも思います。
上記のキャリアパスをお願いした時、実は企業によって対応が違ってきます。

①すぐ作る(日本人用にある)企業
②ないけど今から作る企業
③「そんなの必要ない」という企業

上記のうち③のような会社では、外国人材が本当にやめていくのです。もちろんキャリアパスを作ったからと言って人材の退職が100%なくなるわけではありませんが、外国人材から選ばれる会社や組織造りのためにも、上記のような取り組みを通じて、外国人材から選ばれる会社と外国人材採用に関するモデルを作っていきたいと思っています。
また、行動原則4「私たちは、日本及び国際社会の発展と安定に貢献するため、外国人労働者の能力開発に尽力します」の実践もしています。具体的には以下の通りです。
当社ではヤンゴンにて日本語学校「J-SAT ACADEMY」を運営しています。

<J-SAT ACADEMYの生徒たち>

J-SAT ACADEMYでは、ミャンマー人材に「10ヶ月で日本語をマスターしてもらう」ことができる教育を行っています。テレビにも取材してもらいました。下記の動画をご覧下さい。

日本語をちょっとだけ勉強して日本に行く技能実習生がいますが、それでは日本でコミュニケーションの壁にぶつかり技能実習の目的が達成できません。実習期間が終わってミャンマーに帰国しても日本企業への就職も難しいし、また日本に行って稼ぐかということになります。これでは技能実習制度の目的が果たされません。ですから、当社では外国人材が日本で働く前の日本語教育に非常に力を入れているのです。

Q: 日本の「外国人材受入企業」に今後求められていくことは何だと考えますか?

日本企業の「思い」だけを一方的にミャンマー人に押し付けてもうまくいかないです。きちんと通訳を通じてミャンマー人に思いを伝えつつ、ミャンマー人の思いも企業に伝え、彼らの気持ちを聞いて企業が「変わって」いかないといけないのです。企業が採用したミャンマー人をリーダーにしていき、彼らと一緒になって今後いろいろなことを改善していく。そういったミャンマー人リーダーが出てきたとき、企業は次の外国人材採用で経験を活かすことができ、いいミャンマー人材の循環ができてくると思います。
外国人材からホンネを聞き出すのは難しいです。当社では外国人材の育成期間中にメンターをアサインし、日本で就職した後もコミュニケーションを取り続けます。何かあった時には悩みを相談してもらい、その悩みをジェイサット日本事務所が共有して企業に伝えることにしています、1か月に1回、日本側の悩みもジェイサットヤンゴン事務所に共有しており、常に社内でもコミュニケーションをとりながら進めています。
ミャンマー人材の受入企業には、彼らの来日前に受け入れ企業に必要リスト(生活準備リスト)を作成してもらっています。

<来日準備リストの一例>

来日前にすべて企業に明らかにしてもらい、ミャンマー人材に伝えています。

Q. この1年間のミャンマー政変の中での貴社の体験、変化、その中で感じるミャンマー人材への想いを聞かせてください

この政変は今後3-5年続くと思います。一番深刻なのはミャンマー人の教育です。日本をミャンマー人の避難と教育の場にしてほしいと思います。この状態が今後ずっと続くわけではないのでやがてミャンマーが再度成長カーブを描いたときにミャンマー人の教育に空白を作ってはいけないと思っており、日本企業にはミャンマー人材に将来につながる技術を教えてほしいと思っています。そして、ミャンマー人材にはそのための日本語の素養を得てもらうことが必要だと思っています。今後も日本とミャンマーがお互いを利用してほしいと思います。

Q:JP-MIRAIおよびJP-MIRAI会員に期待していること、貢献できることなどございましたら、教えて下さい

私たちが作った、日本企業が外国人材を受け入れるにあたってのモデルケースを、信用力のある所を通じて拡散していくことが必要だと思っています。皆さんにまねして頂くことによって、日本が外国人をよりよく受け入れることに貢献していきたいと思っています。それによって外国人に「日本に来てよかった」と思ってもらいたい、それが当社の願いです。

<インタビューを終えて>

株式会社ジェイサットの皆様には、お忙しい中長い時間をこのJP-MIRAIの取材のために割いていただきました。この場を借りて感謝申し上げますと同時に、JP-MIRAIとしても皆様の意見をきちんと今後の活動に活かしていきたいと思います。

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