労働力人口の減少が進む日本において、外国人労働者の受け入れは企業の持続的成長にとってますます重要なテーマとなっています。しかし、実際の受入企業では、生活面・労働面でのサポートやコミュニケーションが上手く行き届かないなど理由から人材定着に繋がらず、本来は人材確保を目的として受け入れたにも関わらず、結果として新たな負担や煩雑な対応が生じてしまうケースも少なくありません。単に雇用機会を提供するだけでは、長期的な就業継続には結びつかないのが現状です。
そこで、本シリーズの<長崎・佐賀編>では、「住居」「日本語学習」「社内コミュニケーション」「人材育成」の4つの視点から、企業の実践事例をもとに、外国人労働者が地域社会の一員として安心して暮らし、働き続けられる環境づくりのヒントを探ります。初回となる今回は、「住居」に焦点を当てます。
住居整備における課題とは
外国人労働者の受け入れにおいて、住まいの整備は定着の基盤となる重要な要素です。安心できる住環境がなければ、生活不安や孤立感が積み重なり、職場でのパフォーマンス低下や早期離職につながるリスクも高まります。
一方で、受入企業からは「初期費用負担をどこまで支援すべきか判断が難しい」「生活トラブルへの対応に不安がある」といった声も多く聞かれます。それでは、各企業がどのような工夫を行なっているのか、実践例を見てみましょう。
丁寧な情報共有による信頼醸成と、貸付金制度による自立促進を両立
ー 株式会社ディーソルNSP(IT / 高度人材)
「初めての外国人材受入れだったので、来日前に家探しを始めたのですが、契約前にメールを通じて、物件のメリット・デメリットや周辺環境の様子を共有しました。通勤の利便性を優先したため、路線が近く、電車の音が気になるかもしれないなどの懸念点はありましたが、窓からの風景を気に入ったようで、その物件に決めることになりました。また、家具や家電を本人が揃えるのは大変だと思ったので、社員から不要になったものを集めるなどして、低コストで最低限の環境を整えました。
さらに、家賃の初期費用に関しては、東京本社へ掛け合い、社内の貸付金制度を創設し、本人の意見も聞きながら金額面を調整の上、運用を開始しました。“企業が全てを負担する必要はない”という認識が広がれば、受入のハードルも下がり、社内での説得材料となり得るのではないかと思います。」
(鶴本取締役部長)

住環境改善で技能実習生の安心と地域交流を実現
ー 東興産業株式会社(土木建設 / 技能実習生)
「実は、過去に受け入れていた技能実習生が失踪してしまったという苦い経験があります。その原因は定かではありませんが、今思い返すと一部屋を2人で使ってもらうなど、暮らしやすさへの配慮が欠けていたと反省しています。快適に暮らしたいという思いは私たちと同じですし、母国にいる家族とプライベート空間で話す時間も必要だという”当たり前”のことに気付きました。
その反省から、新たな寮として、近所で閉業となったグループホームを改装し、個室を確保した施設に整備しました。リビングやキッチンなどの共有スペースでは団欒を楽しみ、各々の部屋ではプライベートの時間を過ごせるようになり、皆がリラックスして暮らせるようになりました。また、地区の集まりに連れていくこともあるのですが、若くて元気な実習生たちは地元の方々に可愛がられ、地域との繋がりを育む貴重な機会となっています。」
(香川常務取締役)

生活の不便さに寄り添い、支援体制の改善を日々模索
ー 社会福祉法人めぐみ厚生センター(介護 / 特定技能)
「当法人で運営する事業所のうち、2つの指定障害者支援施設にて特定技能人材を受け入れています。皆日本で暮らすのは初めてだったので、住居・家具・家電・自転車など万全の環境整備を尽くしましたが、施設によっては山奥に位置しており、1時間に1本のバスしか移動手段がないような場所もあります。宿舎も敷地内にあるため、市街地に住みたいという希望もありますが、通勤路が8kmほどあり、毎日自転車で急坂を上るのは現実的ではありません。それでも、休日は自力で調べて電車を乗り継ぎ博多などに出掛け、楽しんで帰って来るので、彼女たちの逞しさも感じています。彼女たちのプライベートも尊重しつつ、通勤・生活の利便性を考慮し、より良い体制を模索できればと考えています。」
(中原事務部長)

取材を終えて ~住居整備を通じた生活基盤の支援と自立促進
住居は、外国人労働者が安心して働き続けるための生活基盤であり、職場や地域への定着に不可欠な要素であることが、各企業の事例からも改めて浮き彫りになりました。
単に住居を提供するだけでなく、プライバシーへの配慮やこまめな情報共有などの工夫の積み重ねが、外国人労働者の安心感に繋がり、立地や生活利便性など環境上の制約を抱える中でも、企業ができる支援を模索し続ける姿勢こそが、着実な定着への歩みを支えているのだと、取材を通して強く感じました。
外国人労働者を「お客様」として手厚く支援するだけでなく、本人が地域で自立できるよう促す「生活者」としての視点を持ち、主体性を育みながら共生を目指していくことが、長期的な定着に向けてポイントだと言えるのではないでしょうか。
(JP-MIRAI 椿原)