本シリーズの<長崎・佐賀編>では、「住居」「日本語学習」「人材育成」「社内コミュニケーション」の4つの視点から、企業の実践事例をもとに、外国人労働者が地域社会の一員として安心して暮らし、働き続けられる環境づくりのヒントを探ります。今回は、「人材育成」に焦点を当てます。
外国人労働者を受け入れる企業では、人材育成に関して「どう育成すれば戦力として活躍してもらえるのか」「評価の仕方に悩む」といった声が多く聞かれます。特に現場のOJT任せになりがちな業界では、教育体制が整っておらず、外国人労働者の早期離職や戦力化の遅れが課題となっています。
しかし、これは外国人労働者に限った課題ではありません。あらゆる業界で人材不足が深刻化する中、日本人の若手社員に対しても同様の課題を抱える企業が多いのではないでしょうか。今回の取材には、外国人労働者の育成をきっかけに、改めて組織全体の人材育成のあり方を見直すヒントが詰まっていました。
外国人社員向けに始めた教育制度構築が新卒・若手社員の定着に繋がった
株式会社植松建設(建設/高度人材)
外国人社員の受入れ開始時、社員の7割は業界で長くやってきた50代以上。そんな「できて当たり前」の環境下では、日本人の若手社員も十分な教育を受けられず精神的にダメージを受け、すぐに辞めてしまうケースが少なくありませんでした。当然、外国人社員受入れの教育制度構築もゼロからのスタートでしたが、新卒社員受入れ体制構築やチーム力向上のチャンスと捉え、全社的に体制を整備することにしました。
現在、新入社員向けには、事前に記入した自己や先輩、会社を評価するシートをもとに、年4回の社長面談を行っています。社員にとって自身の現状や目標を客観的に振り返る機会となっているだけでなく、会社にとっても新入社員の現状を把握するとともに、会社全体の環境改善に対応するための材料となっています。新人である自分も考えを言って良い、そしてその意見を聞いてもらえるという体験を通じて、信頼関係を構築するように努めています。
加えて、若手社員向けには、メンターという立場を与え、研修を行ったうえで自覚を促し、さらにチャレンジングな仕事も積極的に任せるようになりました。入社4年目のニルマルさんも現場責任者を担っていますが、顧客との折衝など慎重さが必要な場面では適宜サポートし、安心してチャレンジできる体制を築いています。ニルマルさんには、留学生向けの会社見学・説明会等で話してもらうなど、採用面でも活躍してもらっています。
モチベーションや能力を高める工夫
東興産業株式会社
(土木建設/技能実習生)
モチベーションの維持・向上のために、個々人で目標を立ててもらうことを大事にしています。「仕事を通じて何を身につけたいか」「稼いだお金をどう使いたいか」「長期目標に近づくため、今月はこの目標を達成する」など、定期的に振り返り言語化することが、仕事に対する意欲向上に繋がっています。
株式会社オリエントアイエヌジー
(測量/高度人材)
未経験者が多い業界なので、新卒社員は、1年目に現場を一通り経験した後、2年目に(会社の負担で)専門学校に通い、現場経験と知識を集中的に習得できる体制となっています。外国人社員についても、まずは専門学校での学習ができる程度に日本語能力を強化し、同じ経験をしてほしいと思います。


会社の新たな発展に向けて
株式会社ディーソルNSP
(IT/高度人材)
入社前からITスキルと経験を持っていたタンヴィルさんは、社員同士で学び合う風土づくりに貢献してくれています。日々の業務やスキル発表会では新たな視点の共有や提案を積極的に行い、成長意欲も強いです。特に新卒社員にとって、この「自分で学ぼうとする姿勢」は良い刺激になっていると感じます。
将来的には、会社の海外展開の際に橋渡し役を担ってもらうなど、活躍の場を広く探っていきたいと考えています。
株式会社亮
(建設/高度人材)
元々技能実習生の受入れは行っていた中で高度人材(IT人材)の受入れに踏み出したのは、業務改善・DX化を進めるという狙いがありました。採用したジョニーさんには、現場の仕事の習得と並行して、労務管理システムの開発を進めてもらっており、その開発速度はインターン中の連携先であった民間シンクタンクからも認められていす。システム開発には建設業界への理解も欠かせませんが、自身の強みが活かせるこの業務があることで、現場仕事や専門用語の習得も加速するのではと期待しています。
取材を終えて ~外国人労働者の育成から広がる、組織全体の“人づくり”の力
外国人労働者の育成に取り組むことは、単なる制度整備にとどまらず、企業全体の「人づくり」を見直すきっかけにもなると捉える、各企業の前向きな姿勢がとても印象的でした。
丁寧な目標設定支援、挑戦を促す環境づくり、個々人の強みを活かした業務アサインなど、今回紹介した企業の工夫は、日本人の新卒や若手社員にもそのまま活かせる内容ばかりです。人材不足が深刻化する今、外国人労働者の育成に取り組むことが、結果的に社内の人材育成力を高め、組織全体の成長にも繋がると言えるのではないでしょうか。
(JP-MIRAI 椿原)