勉強会の動画は以下をご覧ください。
・開会挨拶(00:01:40~)
・主催者挨拶(00:06:20~)
・事例報告「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」(00:11:00~)
・質疑応答・パネルディスカッション(00:53:10~)
・講評・まとめ(01:49:38~)
勉強会冒頭、厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長の吉田暁郎様よりご挨拶をいただきました。
以下、吉田様の発言要旨:
厚生労働省の「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」に参画をいただいた自治体と本勉強会主催のJP-MIRAIに対して感謝いたします。
令和元年に特定技能の在留資格が制定された当初、受入れ企業や自治体から「転職が可能になったことで、地域に定着する外国人材が減るのではないか」等の懸念の声を多くありました。そのような中、良い受入れこそが、長く日本で働き、生活する外国人材の増加につながると考え、自治体と共に取組むものとして企画したのが本事業です。
本事業を通じて、「定着」を促進するためのポイントとなる「働きやすい職場」「住みやすい地域」をつくっていく様々な段階における課題や好事例を蓄積することができました。このような事業の成果や反省点も含めた知見を、全国の自治体や企業に広く共有し、今後の展開に生かして生かいく必要があると考えております。本日の勉強会では、外国人材の地域定着促進につながる活発な議論を期待しています。
JICA国内事業部長の福田茂樹より主催者挨拶を行いました。
以下、福田の発言要旨:
多文化共生・外国人材受入れの分野において、地域横断的な共通課題がある一方、各地域で取組の多様性についても実感しています。その中で重要なポイントが二つあると考えています。
第一に、外国人材が地域で生活する中で一番身近な存在である自治体、国際交流協会の役割や取組の重要性第二に、各自治体、国際交流協会をつないでいく「ネットワーク」の重要性が挙げられます。他地域の様々な取組や事例の学びあいを重ねることで、課題解決に資する新しいアイディアが生まれてくることや、「共創」が進んでいくことがあると思っています。
「なぜJICAが国内で外国人材受入れ・多文化共生の取組を行っているのか」と聞かれることがあります。私自身は、開発途上国の問題と日本国内の問題は切り離して考えるものではなく、開発途上国/日本国内での事業の知見が日本国内/開発途上国の課題解決に役立つものという「一体的に取組むべきもの」と思っています。そういった意味で、本勉強会での学びを、JICA事業に生かしていきたいと考えております。
「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」の受託事業者であるパーソルキャリア株式会社の多田盛弘様より事業について実施報告をいただきました。
以下、多田様の発言要旨:
「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」では、外国人材が、労働者であり、地域の構成員である点に焦点を当て、最終的な成果物として、「企業においてどのような受入れ施策をすべきか(求人票の作り方、人材育成、受入れ後のサポート等)」、また、「地域の中での定着を促す上でどのような取組が有効なのか」について事例集/マニュアルとしてまとめて、モデル自治体以外の地域でも参照してもらえるようにしました。今回は、本事業の結果について、所感も交えながら共有いたします。
対象自治体は5道県84市町村。事業実施期間中の1年間に受入れをした外国人材は390名でした。
地域への聞き取り調査では、外国人材がどのくらい生活しているのか、定着に向けた施策はどのようなことをしているのかを行う一方で、今後どのような施策が必要なのかのセミナーも実施いたしました。
本事業において苦労したことの一つは地域内の交流イベントを一緒に実施してくれる市町村を見つけることでした。厚労省の事業ということで、各自治体側に予算的な負担が無かったにもかかわらず、「外国人材の定着」を主管する部署が明確でなかったり、そもそも存在しなかったり、また、右分野にあまり関心がない、といったことを理由に、参加自治体として手を挙げる地域がとても少なかったのです。このような対象自治体の選定プロセスを通じて、各自治体における外国人材の受入れ分野に対する政策の重要度、関心の差が顕著であることが分かりました。
本事業で受入れをした外国人材を対象に行ったアンケート調査や定期面談では、地域の定着を考える上でヒントになる結果がいくつかありました。
また、受入れ企業側へのアンケートでは、住居を見つけるのに苦労した企業が多かったです。仕事場に徒歩で通える場所に住居がないことや、外国人が入居出来ない物件が多く、住居を建てたりする業者もあり、この点については、行政の支援が欲しいと考えている企業は多くいることが分かりました。
事例集/マニュアル
「定着における課題」を以下の2点で整理:(1)地域との関わりが持てない、(2)生活における利便性の課題。
本事業では1点目の課題に対しどのような施策ができるかについてモデル地域で検討・検証しました。(1)異文化の壁、日本語、地域の施策で所在やニーズが分からないが故に交流施策ができない。
こういった事例を取り上げてまとめてあるため、是非参考にしていただきたい。
発表資料はこちらからご覧ください。
※参考リンク:地域外国人受入れ・定着モデル事業 地方自治体向け事例集|厚生労働省
最後に、本事業を通じた所感を共有したいと思います。1年間この事業を通じて受入れた外国人材390名のうち、帰国者が3名、転職が0名で、日本人と比較しても非常に低い転職率となっています。受入れ企業おける人間関係の悪化などが転職につながる要因になるものの、その地域への愛着や住みやすさが一定の抑止力となるように思いました。そのため、受入れ企業、地域双方への不満が増えると、結果的に、外国人材が地域を離れていくことにつながるでしょう。このような観点から、地域での定着を促進していく上では、企業内の受入れ施策を法人側でしっかり行っていくことはもちろん、外国人材の持つ「地域の構成員」としての側面を下支えする各自治体での取組推進が重要であると考えます。
以下の方々を迎えて、パネルディスカッションを行いました。
・パーソルキャリア(株) 多田 盛弘 様
・鹿児島県さつま町 企画政策課 企画政策係 舟倉 直人 様
・群馬県 産業経済部戦略セールス局eスポーツ・クリエイティブ推進課 クリエイティブ拠点係 外国人活躍推進係 後藤 昌宏 様
・群馬大学 教授 結城 恵 様
・宮崎大学 准教授 伊藤 健一 様
・JICA/JP-MIRAI事務局 宍戸 健一(ファシリテーター)
初めに、パネリストの方々より感想とご自身の取り組みの紹介をいただきました。
発表資料はこちらからご覧ください。
さつま町には429名の外国人住民(令和5年2月末時点)がおり、町内総人口の約2.2%を占め、県内の他の自治体と比較しても高い割合となっています。また、外国人住民のうち、約66%が技能実習や特定技能の在留資格を有しています。
今回のモデル事業におけるさつま町での取組では、スムーズな事業開始に繋げるべく、関係する5者による顔合わせ(関係者協議)を行ったことで、お互いの距離感が縮まり連携を深められた点が成果につながったと考えています。また、受入れ企業が受入れへの理解や積極的な交流の促進を進めてくださったことも大きな要因と言えます。企業によっては、このように外国人材と地域との交流に理解を示してくださらない受入れ企業もあるため、本町としては、こういった事例を共有しながら、企業側の理解促進にも取組んでいきたいと考えています。
本事業を通じて企業と地域双方の環境の整備が大切だと改めて感じております。受入れ企業における良い事例や取組の発信を県として積極的に実施しました。地域での取組は、沼田市、片品村でそれぞれ事業を実施してもらい成果が上がったと思っています。ただ、このような取組に県としてあまり協力することが出来なかった点が反省点で、今後の取組におけるサポートをこれから進められればと思います。
宮崎・バングラデシュスタイルで対象としている人材と、本モデル事業で対象としている在留資格は違いますが、共通点が多くあると思います。例えば、日本で働いている、あるいは働こうと考えている外国人材は総じてキャリア意識の高い方が多いと思っており、そういった点を意識して受入れ施策をすすめていく必要がある点です。外国人材の受入れ・定着において、大きな課題は様々ありますが、なるべく身近な課題として置き換えて地域の方々と話すことができないか、ということはいつも意識しています。離職や地域を離れる要因に繋がる外国人材が抱える不満や困りごとは、「若者は」と枕詞を付けたら、日本人でも外国人でも共通するものなのではないかなと思います。
また、転職の話題に少し触れますと、先日、県内のIT企業関係者と話をした際、「同期・同世代の日本人の若者が社内にいる」ということが、外国人材にとってプラスの職場環境を生み出していることが分かりました。
「外国人材定着の方程式はあるのか」という問いに対し、地域定着促進の方策は地域によって多様であり、画一的な取組の展開は難しいと考えています。地域定着促進を進めていくにあたっては、多田様がお話されていたように、多様な地域モデルを創出していくことが大切だと思います。また、今回のモデル事業を踏まえ、それらを他の地域で応用・展開をしていくためには、事業成果から抽出できる指標にはどのようなものがあるのかを考えていくことも重要ではないかと考えました。
「指標」としてどのようなことを抽出できるのかという点について、今回の事業の調査で挙がった課題に対して、「働く」(給与、勤務条件、職場の場所、成長支援の有無)と、「暮らす」(生活環境、通勤・交通の便、同国・外国人の先輩・同僚の有無)に分類してみました。それぞれの課題が複層的に影響し合う要因として存在する中、どのように影響し合っているのか、それを踏まえ、どのようなモデルを形成することができるのかを考えることが、各地での外国人材の地域定着を促進していく上で必要であることと言えるでしょう。
私が企画・運営を担当している「グローカル・ハタラクラスぐんま」プロジェクト(文部科学省認定「留学生就職促進教育プログラム」では、「働く」に焦点をあてた取組を通して、「暮らす」で支える取組を融合させる方法でプログラムを実施してきました。「働く」という観点から、地域と人とのネットワークを広げていくことで、外国人留学生の地域への親近感や自分が(地域に)必要とされているといった実感が生まれ、「暮らす」場所としての地方を念頭に置き始める。そうすると、国際交流活動の活性化だけではなく、産業の活性化を促進する取組にも、外国人財を積極的に活用し、可能なら省庁連携による取組にしていく方向性はどうかと考えました。例えば、片品村でモデル事業として行われたオンライン日本語教室の取組を拡充していくために、文化庁「生活者としての外国人のための地域日本語教室スタートアップ事業」と連携するなど、各省庁で行われている様々な事業をそれぞれリンクさせながら取組を進めていくことで、持続可能性が広がっていくのではと思いました。
後半は、ファシリテーター・参加者からの質問にお答えいただきました。
という質問に対しては、
方程式の解である、目指すべきところは地域横断的に共通しており、「日本人も含めて働きやすく、暮らしやすい」という点にあると思いますが、一方で、その解にたどり着くまでの部分が地域によってかなり多様です。地域ごとに有する資本(予算や多文化共生・外国人材受入れに携わる個人・団体)やプレイヤー(熱意のある取組の実施者など)が異なり、多様であることが、地域定着促進の取組を展開していく上での難しさとして存在していると思います。先ほどの結城先生の話にもありましたが、定着において「働く」と「暮らす」が一体的である中で、受入れ企業の中の考え方(受入れた外国人材と地域との交流に積極的かどうかなど)は一つ重要なポイントではないかと考えています。」(多田様)
という見解をいただきました。
という質問に対しては、
「様々なアクターみんなで地域の取組基盤をつくっていく」ことが肝だと思っています。当事者意識のある個人・団体が集まって議論をすること自体が土台になると思いますし、そういった土台が各地域での事業促進に繋がっていくと考えています。そういった意味で、受入れ側の人づくりは重要なポイントではないでしょうか。」(伊藤様)
という見解をいただきました。また、多田様からも
「今回の事業のモデル地域は、事業後も、 地域の関係者が今後も継続的に取組むべき課題である、という強い認識があり、自主的に取組を進めていく意志がある自治体の皆様です。地域主導で行われる事業を行政等が後押しするというかたちが望ましいですが、まずは「地域主導で進めていこう」という意識醸成が取組実施の第一歩として必要であり、そのような「きっかけづくり」が上手く行けば地域主導での持続的な取組が広がっていくのではないかという印象持っています。」(多田様)
最後に、(公財)日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩様より講評とまとめをお話いただきました。
以下、毛受様の発言要旨:
今回の事業は、これまでの多文化共生とは次元の異なるもので、政府の事業として、海外に住む人材に日本に来てもらい、定着してもらうことを実施した点で、一歩進んだ取組といえるでしょう。
国が主体となり、民間企業であるパーソルキャリア(株)が斡旋団体という立場で、特定技能人材の地域定着に取組んだ結果、離職率は5%以下だったという事実は、注目すべき成果です。民間任せにせず、国がしっかりと座組をし、取組めばこのような結果が出るということを示した良い事例だと思います。
多田社長の基調講演の最後に、企業の理解が得られないために、外国人個人の活動が制限されるという話がありました。日本人に対してはあり得ないことであるのに、外国人に対しては制限が課される、ということはとても大きな問題です。今後、外国人材が日本で活躍していくにあたっては、「対等な労働者」として働き、生活をしていくことが出来るようになることが大事だと考えています。
今回の事業を単なるモデルに留めることなく、好事例として生かし、政府として積極的に、一歩踏み込んだかたちで、今後も外国人材の受入れに関与していくことが大切だと思っています。
以上