外国人労働者をめぐる課題については、大きく分類すると、国の制度や法律を背景として起こっている課題と、雇用主や関係者の意識と理解不足により起こっている課題があります。前者は法制化・罰則など制度の見直しにより、ある程度解決されうる面もありますが、後者については、企業など外国人労働者を受け入れる側でも意識を高めていく必要があります。こうした背景のもと、JP-MIRAI(責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム)は、10月13日(木)に公開研究会「受入企業・団体等の認証について考える」シリーズの第2回「グローバルスタンダードを目指すためには」をオンラインにて開催しました。当日はJP-MIRAI会員を含む102名の方にご参加いただき、グローバルスタンダードやそれに基づく認証等を学び、JP-MIRAIとして目指すべき姿や方向性を検討致しました。
セミナーの冒頭では事務局より「企業に求められるグローバルスタンダード」と題して「日本の法令」「日本政府による方針・ガイドライン」「条約・二国間協定」「送出国の法令」「欧米の法令」「グローバルスタンダード(国際基準)」等の全体像やそのかかわりに関して説明しました。また、いずれの基準もビジネスと人権指導に関する指導原則に沿って取り組みを行うという点で、目指すべき方向性は一致している旨お伝えしました。
続いて、3名のゲストを迎え、「認証」や「サステナビリティ評価」に関してご講演を頂きました。
①RBA基準について
一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)代表理事 和田 征樹様
RBA(Responsible Business Alliance:レスポンシブル・ビジネス・アライアンス)とは、電気電子機器(エレクトロニクス)産業またはそれらが主な部品である産業およびそのサプライチェーンにおいて、労働環境が安全であること、労働者が敬意と尊厳を持って処遇されること、さらにその事業活動が環境に対し責任を持ち倫理的に行われることを確実にするための基準をそもそもは規定したものです。和田様からは、まず最初に、RBA認証などは法令遵守が基本であり、そのレベルによりBTL企業(Below The Line:基準以下)、OTL企業(On The Line:基準合致)ATL企業(Above The Line:基準以上)の3つに分けられていること、国際基準やRBA認証では企業に対し、ATL企業を目指すことを強く推奨されていることが紹介されました。
次に、RBA認証を受ける企業は共通の行動規範に責任を負い、様々なトレーニングと評価ツールを利用して、サプライチェーンの社会的、環境的、倫理的責任の継続的な改善をサポートする評価監査をしていること、また、そのミッションは、「グローバルサプライチェーン全体で労働者、環境、ビジネスに持続可能な価値をもたらす」こと、更にはその使命は「メンバー、サプライヤー、および利害関係者は、主要な基準と慣行を通じて、労働条件と環境条件およびビジネスパフォーマンスを改善するために協力する」ことである、とご紹介されました。
RBAの行動規範、基準は国際的に認知された基準を利用することとされており、RBA規範と現地法の間で基準が異なる場合は、最も厳しい要求事項を満たすことと定められているとのお話がございました。また、行動規範とは別にVAP(=運用マニュアル)があり、より具体的な内容が記載されているとのことでした。例えば「雇用の自由選択」という項目があり、年季契約労働、非自主的な囚人労働、また国際的によく言われる奴隷制度や人身売買による労働力を用いてはならない、という基準があり、この部分が外国人技能実習生のところでは関わってくるとの認識をお持ちだと話されました。
また、基準認証については「作る際にどこを目指すのかを明確にしておくこと」及び「基準の信頼性・国際的な認知に対する担保をすること」が基本であるとのお話を頂き、JP-MIRAIが目指す「選ばれる日本」になるためには日本基準だけではなく、国際基準で考える必要があるのではないかという貴重なアドバイスを頂きました。加えて、現場では基準認証を適切に実施するうえで、認証を行う人材が不足していることも懸念点としてあげられ、人材育成の重要性に関してもお話がございました。
そして最後に、基準認証を取得することで企業が安堵感を持ち、より上を目指す活動の歩みが止まることが無いように、継続的な取組ができるような認証の仕組みを期待する、とのお話を頂きました。
②B Corp認証について
株式会社バリューブックス 取締役 いい会社探求 鳥居 希様
鳥居様からは「B Corp認証を取得しようとしている企業」として、そして「B Corpハンドブックを監訳し出版した企業」としての2つのお立場からご講演を頂きました。
まずB Corp認証に関してご紹介を頂きました。B Corporation™️(以下、B Corp)のBはBenefit for allという意味で、B Corpが目指すのは「グローバルエコノミーを全ての人、コミュニティ、地球に恩恵をもたらすものに変革していく」ことである、とご説明を頂きました。
また、B Corpに参加する企業が皆で「相互依存宣言」を行い、認証を受ける時には同宣言に署名する必要があるとのことでした。また、現在5つの領域に関してアセスメントが行われており、その結果が200点中80点以上となり、審査・面談を経て認証が可能とのお話がございました。具体的なアセスメントとして、「ワーカーの機会の平等性・公平性」「経営者層のマイノリティ割合」「環境を修復するようなビジネスモデルであるか」等が含まれている旨ご紹介頂きました。B Corpハンドブックには「完璧を目指すな」とも記載があるとお話頂きつつ、今まさに認証取得にチャレンジされているからこその貴重なアドバイスを頂きました。また、3年に一度、再認証のプロセスがあり、継続的な改善が非常に重要視されていることもご共有頂きました。
➂Ecovadisの評価基準について
エコバディス・ジャパン株式会社 代表取締役 若月 上様
若月様よりはじめにエコバディス社はサプライヤーから調達を行う最終ブランドホルダーの評価機関として、「最終ブランドホルダーの責任」という考え方を前提にアセスメントを行っているとご説明を頂きました。アセスメントを実施するうえで、CSR調達基準、サプライヤーの行動原則を整備していることは前提であり、それだけではなく遵守している、そして遵守されているか否かのアセスメントを行い、遵守されていない場合には是正措置を講じるという一連の流れが重要であるとのお話を頂きました。また、調達管理においては、QCDを重要視しすぎるばかりに、今日問題となっている人権問題や環境問題を誘発している面があると警鐘をならされ、QCDにサステナブルを加えて「サステナブル調達管理」として管理することも支援しているとのことでした。裾野が広く、情報公開義務が無いサプライチェーン管理を適切に行うことは、結果として機関投資家からの評価の向上やNGOリスク回避にもつながり、非財務的な取組が財務に直結し、株価にも直結するため、企業も取組をすすめざるを得ない状況だとお話を頂きました。
また、評価を行う際、バイヤー(最終ブランドホルダー)から見た時の二次サプライヤーを一次サプライヤーが管理出来ているか、という点に注目されているとのことです。間接的にでも二次サプライヤーを一次サプライヤーが管理出来ていれば、二次サプライヤーも問題ない、という考えに基づいて実施しているとのことでした。このような具体的なアセスメントのプロセスとしては、一次サプライヤーに質問表を送付し、証明書類を求め、それに基づいて第三者機関のアナリストとして分析評価を行い、スコアカードで評価する流れとなっており、そのスコアで100点満点中45点を下回ると、リスクありとして是正を求めるとのことでした。
パネルディスカッション・質疑応答
〇一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)理事 和田 征樹様
〇株式会社バリューブックス 取締役 いい会社探求 鳥居 希様
〇エコバディス・ジャパン株式会社 代表取締役 若月 上様
〇モデレーター JP-MIRAI事務局 宍戸 健一
1つ目の議題として企業が「社会貢献」や「人権保護」に取組む動機について、その要因が企業価値向上にあるのか、もしくは取引先企業との関係性にあるのかについて意見交換を行いました。参加者からは「企業価値の向上」のために取組まれているとの共通の見解が示されました。具体的な意見として、その手段の1つである認証取得に取組むことは、「自分たちがよりよい会社になるための指針にすることができる」「先駆的なグローバルコミュニティの一員になれる」「地方の中小企業でも、大企業と同じ基準で話ができる」といったメリットがある、との意見が聞かれました。
2つ目の議題として、「評価」「認証」の費用はバイヤー側が支払っているのか、サプライヤーが支払っているか、について意見交換がされました。これに関してはケースバイケースであるとのご回答を頂きました。但し、実施にあたってはバイヤーとサプライヤーとのエンゲージメントが非常に重要であり、バイヤーがサプライヤーに対して説明会等を実施し、目的やメリット等を丁寧に説明を行うことが大切であるとのお話を頂きました。
3つ目の議題として、「認証」「評価」においては類似の仕組みが多数ある中で、どのように選択していくのか、について意見交換がされ、「自社の状況を把握し、必要なところを多くカバーしているものを選択してはどうか。」「産業別に日本以外の基準に関しても参照してはどうか。」「自社としてサプライヤーに何を遵守してもらいたいのかで選択してはどうか。但し、推進にあたってはマネージメントの意識が非常に重要である。」等の意見が聞かれました。
今回の皆様からの報告やご意見を通じて、自社の状況にあわせて、「評価」や「認証」を適切に活用しつつ、グローバルスタンダードを目指すためには人権への意識の向上と、バイヤーとサプライヤーが一体となった取り組みを継続していくことが非常に重要であるということが理解できました。
参加者からのアンケートでは
「今回のように、一斉に一つの業界の方のお話を聞ける機会はあまりないので、もっと頻繁に開催していただきたいと思いました。とても有意義な時間で、多くを学ぶことができました。」
「立場の異なる四者のディスカッションで、サステナビリティ、とりわけ人権についての関係領域の広さを理解しました。」「人権対応については、最終的には第三者認証が必要であり、そういう意味で今回のセミナーは有意義だったと思う。一方で、第三者認証に至る前の自己認証に関する情報提供も欲しい。」という声もお寄せ頂きました。
JP-MIRAIでは、認証制度に関して様々な観点から更なる議論が必要と認識しており、引き続き、研究会などを通じて議論を深めていきたいと思います。
第2回「受入企業・団体等の認証について考える」公開研究会にご参加くださいました皆様、ありがとうございました。本研究会の全講師より資料公開のご了承をいただきましたので、公開いたします。
※資料の無断転載はお控え下さい。
開会・前回の振返り JP-MIRAI事務局 宍戸健一
企業に求められるグローバルスタンダード JP-MIRAI事務局 秋山映美 資料はこちら
RBA基準について 一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)代表理事 和田征樹様 資料はこちら
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パネルディスカッション