行動原則実践事例紹介 第9回 大場孝弘さん

2022年01月12日

本企画では、会員各位の外国人受け入れ事例を紹介しています。

第9回でご紹介するのは、個人会員の大場孝弘さんです。京都にほんごRingsに所属する大場孝弘さんは個人会員としてJP-MIRAIに参加され、2021年度上半期活動報告会での発表で会員相互の投票にて優秀賞にも選ばれています。
大場さんの活動報告については右記のページの動画でも見ることができます。(「優良活動報告」の動画)
京都にほんごRingsのウェブサイトは右記をご覧下さい。https://www.kyo-rings.net/

12月中旬に、JP-MIRAI事務局によりオンラインインタビューを実施しました。

<大場孝弘さん>

Q:京都にほんごRingsの概要を教えてください。

京都にほんごRings(以下、Rings)は、京都府内で日本語教室を開いているボランティア団体のネットワーク型の組織で、2002年に結成されました。Ringsの主な活動は、地域の多文化共生を進め、情報共有・連絡調整を行うことです。3か月に1回会議と年1回の総会を行い、その時々のニーズに沿って、日本語の学習に関する技術の向上を目指しグループを作ったり、京都府の南北の違いなどの地域特性も踏まえ他教室の参考情報を提供したりしています。
日本語教室の対象や目的は団体や支援者により異なりますが、現在は教室を運営する23の団体と個人が加盟し、全員がボランティアで活動しています。2020年度の推定値では、約700人の支援者が延べ2万人の学習者に日本語の学習機会を提供しました。
公益財団法人京都府国際センターと協力し、今まで教室がなかった空白市町村での教室設置を目指して、新規教室の立ち上げ支援や日本語教師の養成講座に取り組んできました。2016年は18教室でしたが、その後、教室、支援者、学習者ともに増加しています。昨年は、新型コロナウイルスの影響で、以前から運営している教室関係者からは、「学習者・支援者とも減少している」と報告がありましたが、新規教室の増加によって全体的に増加傾向にあります。

<京都にほんごRings 教室データ 2018年度版>

Ringsに加盟している団体・人は日本語を教えている方がほとんどですが、私自身はボランタリーな活動が目的を果たすための運営面をサポートしています。日本語教育以外の地域の特性や、多文化共生における課題を考えてもらう機会を提供する研修会の企画、自分の教室ではできないが会員から要望としてあがってくる取り組み(特に子どもに関わる活動)などのプロジェクトを進めてきました。
ここ2年間は新型コロナウイルスの拡大の影響で、私自身はオンラインツールの活用サポートが大きな役割となっています。

Q:加盟している日本語教室について教えてください。

歴史の長い教室では、国際交流の一貫として開いた教室や、英語などの媒介語を使った日本語学習をしていた教室もあります。日本語を使って日本語を教えるという、日本語教師の資格を持つ人を中心に開かれた教室もあります。
国際結婚や帰国者などを対象にした教室では、日本語学習とレクリエーションの機会の提供、暮らしの相談を行っているところもあります。最近は、学習者のほとんどが技能実習生という教室もあり、そこでは日本語能力検定対策のニーズが高くなっています。
教室の成り立ちによって支援者の参加動機や関心も異なり、日本語教育の手法に関心を持つメンバーは全体的に多いものの、技能実習生の増加に伴って、生活上の疑問や困りごとを聞くことに関心を持つ支援者が多い教室も生まれています。

Q:JP-MIRAIでは、会員企業・団体に、「責任ある外国人受け入れのための5つの行動原則」を実践して頂くよう呼び掛けています。下記の行動原則に関連する取り組みを教えてください。

①各団体への支援・情報提供
2020年のコロナ禍により、それまで行っていた公共施設を利用しての対面での教室は実施できなくなりました。そこでRingsは、各教室へのオンライン会議支援、学習機会の提供、オンラインイベントを開催し、支援を行いました。
RingsでZoomの有料契約を行い、Zoom操作の基礎やホスト運営の勉強会を開き、関心を持つ個人を集めて「Zoom活用グループ」を作り、勉強会や、運営体験を交代で行う体験会、その他のオンラインツールの利用法等の勉強会を開いてきました。また、個別に受けた相談に関して、同じような関心を持つ方を集めたオープン相談会も開いています。
支援者の中にはオンラインに抵抗を持つ方も少なくないため、オンラインでの交流会を開き、オンラインツールの抵抗を減らす取り組みをしてきました。Zoomのブレイクアウト機能を使った9時間のオンラインの交流イベントを実施し、日本語を学ぶ部屋、運営を話し合う部屋などの他に、支援メンバーが趣味を披露する部屋など多様な部屋を開いて、参加者が自由に出入りする催しとなりました。
オンラインでの日本語教育の研修のほか、個人で参加できる日本語教育について学びあう機会を設けたり、京都府内のコロナウイルス関連情報を定期的にMLで流したりしています。
現在、Ringsのウェブサイトでは、ワクチン接種会場で困らないように、ワクチン接種会場における会話スクリプトを作成し、各教室で活用できるようホームページにて公開しています。(https://www.kyo-rings.net/link20/211006/

②Ringsの取り組みによる各教室や支援者の状況の変化
コロナ禍により完全に活動を停止していた教室もありましたが、個人的な努力でオンライン学習を続けた教室や、オンライン学習に取り組み始める教室も生まれました。オンラインツールに抵抗を示す支援者の理解を得るために、Ringsの研修やイベントを活用された教室もありました。一番大きな変化は、交流会に参加した支援者たちに、これまでは対面でないと開催できないと考えていたパーティーや交流会が工夫をすればオンラインで実施できると感じていただけたことでした。現在は、年始の交流イベントの準備をグループのメンバーとも相談しながら進めています。
特に郊外の市町村では、1か所の教室で、広範囲をカバーすることは難しかったのですが、対応できる見通しが立ってきました。より多様なサポートが可能だと考える支援者が増えてきたことが大きな成果だと感じています。

③Ringsの取り組みによる学習者の状況の変化
オンラインの活用によって、これまで時間的・距離的な問題で参加できなかった学習者の参加が増えたことは大きな変化だと感じています。教室までの移動の負担がなくなったことで、参加のハードルが低くなったという意見も出ています。
双方が運営に慣れていない場合も多いですが、慣れてくると、日本語の学習だけでなく会話の頻度も増えてきて、学習者としてだけでなく生活者としての面に関心を持つ支援者も生まれていると聞いています。
一方で、特に、技能実習生は、会社からWiFiの環境を提供されていない、学習するスペースがないなど、学習者の通信環境・学習環境が整っていない問題も散見されています。

Q:今後の活動の展望を教えてください

これまでの学習者は国際結婚や帰国などで地域の中で日常的に生活をしている人たちでしたが、この5年で、支援者も不足するほど技能実習生が急激に増加してきました。一方で、国際交流から始まった日本語教室も多く、日本語を教えることにやりがいを感じているものの、技能実習生特有の深刻な問題など、当事者の課題に踏み込むことに躊躇されている支援者も多くいらっしゃいます。
これまで、個人的に解決しようにも制度がわからず対応に苦労し、辞めてしまうボランティアもいたため、日本語教育以外は行わない教室もありました。
現在では、外国人技能実習生の課題に関心のある教室運営者も増えてきているため、個人の日常生活のお悩みや課題解決について関心のある教室も増えてきています。

今までもRingsの支援者とは「地域の日本語教室は他の行政サービスでは把握できない外国ルーツの人に出会える場所」であるということを話してきました。
親密度や信頼度が増せば、学習者が困っていることを話すようになることも当然考えられます。教え-教えられるという関係でなく、支援者が学習者に対して、地域に一緒に暮らす人として関心を持ち、接していくことにより、そのような機会が増えてくると感じています。
支援者は問題を一人で解決するのではなく、行政機関やNPO、企業などへの橋渡し役を担うことができるのではないかと思っています。
外国にルーツがある人の現状を知ってもらうことができるような情報提供も続けていきたいと考えています。

Q:JP-MIRAIおよびJP-MIRAI会員に期待していること、貢献できることなどございましたら、教えて下さい

多様な立場の方の経験を伺うことができ、Ringsの運営を考えるにあたってとても役立っていると感じています。それぞれの立場により、どのようなことで困るのか、またどのようなことが得意なのかなどがわかると、お互いに協力できることが増えていくと思います。
課題別に問題改善のチームなどを作り、具体的な改善事例が生まれるとより参考にしやすくなるのではと思います。

<インタビューを終えて>

大場様には、お忙しい中長い時間をこのJP-MIRAIの取材のために割いていただきました。この場を借りて感謝申し上げますと同時に、JP-MIRAIとしても皆様の意見をきちんと今後の活動に活かしていきたいと思います。

<取材執筆協力 株式会社クレアン 秋山映美・原田宏美>

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